編集後記集
【メルマガIDN 第117号 070215】

■葛飾北斎の 虎図(雨中の虎)と龍図
 フランスの「ギメ東洋美術館所蔵浮世絵名品展」が原宿の太田記念美術館で開催されている(2007年1月3日-2月25日)。歌麿や広重のほか写楽も興味深く見たが、目玉は新発見の北斎の《龍図》。今回は太田記念館所蔵の《雨中の虎図》と対幅で展示されている。

 《龍図》は、2001年にパリのコレクターからギメ東洋美術館に寄贈されたもの。2005年にギメ東洋美術館で開催された「太田記念美術館所蔵大浮世絵名品展」をきっかけに、ギメの専門家と太田の永田副館長らの作品調査の過程において《雨中の虎図》と一対であると確認された。
 描かれた紙がほぼ同じサイズ
 表装の裂(きれ)の模様に金の龍の模様がある
 軸木の太さが一致
 並べると龍と虎の視線があう
 雨が龍のいる天から虎のいる地へと続いている、
などがその理由。
 《雨中の虎図》については知られていたが、これまで《龍図》の存在は知られていなかった。右上方を睨んでいる虎の目線の先は何であるか謎とされていたが、今回初めて双幅で展示されたことにより納得。
 左:飾北斎「虎図(雨中の虎)」120.5×41.5cm 太田記念美術館蔵
 右:飾北斎「龍図」120.5×42.7cm フランス国立ギメ東洋美術館蔵
 紙本、嘉永2年(1849)
 
 《龍図》の顔を見て気がつくことは、小布施の北斎館にある東町祭屋台の天井絵の「龍」の顔に似ていることである。北斎館の展示室には2基の祭屋台が展示されている。上町祭屋台の天井絵には、怒涛図2面「男浪・女浪」が、東町祭屋台には、「龍・鳳凰」の天井絵がはめこんである。北斎が85歳のときに半年かけて制作されたもの。
 《龍図》の構図は、縦に長く、龍の視線の先には、龍を睨む虎がいる。東町祭屋台の天井絵の「龍」は、正方形の波の中に円弧を描いている。この2つの絵が描かれたのは5年近くの時間差があるが、どちらも龍の顔はよく似ており、人の顔をしている。長い顔の形、厳つい鼻、きつきい眼差し、長く伸びた2本のひげ、等々。
 北斎没年の数え年90歳時に描かれた《龍図》は北斎最晩年の心象を表現していると言われているが、私はこの《龍図》の顔は北斎が描いた自画像ではないかと思っている。【生部】

《龍図》、顔のアップ、東町祭屋台の天井絵の「龍」などご覧になりたい方はお知らせください。

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