新聞のコンサートの案内で今井信子が「シャコンヌ」を弾くことを知り、半ば衝動的にチケットを入手し、朝日ホールに聴きにいった。(写真はチラシの一部)
「シャコンヌ」は、バッハ作曲「
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の「パルティータ第2番」の5第目の曲。この曲は1720年、バッハが35歳の時、ケーテン宮廷楽長として、君主レオポリド候のためにたくさんの曲を書いている頃に作曲された。3曲のソナタと3曲のパルティータが交互に構成されている。
この曲はレコードの時代から、ヘンリク・シェリングの演奏を聴いており、私にとって「シャコンヌ」はシェリングにつながる。
ヘンリック・シェリングは1988年5月に来日が予定されていた。バッハの無伴奏パルティータ第3番を聴きたくてチケットを購入し来日を待った。しかし、その年の3月に演奏旅行先で倒れ、そのまま69歳で死去した。泣く泣くチケットの払い戻しにいったのはこの時が最初で最後である。(シェリングについては「龍のコンサート三昧」より)
「シャコンヌ」は、ブラームスによる左手ピアノ版、ブゾーニによるピアノ(両手)編曲版、ストコフスキーによるオーケストラ版、そのほかピアノ伴奏版など原曲以外での演奏も多彩である。それらの中でも演奏の極め付きは、セゴビアのギターであろう。何回聴いても引き込まれてしまう。
その夜の演奏会は「浜離宮 ヴィルトゥオーゾの夕べ 無伴奏シリーズ 全4回」の第3夜にあたっており、第1夜で堤剛がチェロで、第2夜で戸田弥生がブァイオリンで「シャコンヌ」を演奏している。ヴァィオリン曲の最高峰とされるこの曲を、楽器の機能も違うヴィオラで今井信子がどのように演奏するかが当夜の興味だった。
今井信子について書くことはたくさんあるが、東京生まれ、桐朋学園大学卒、イェール大学、ジュリーアード音楽院を経て、1967年ミュンヘン国際コンクール、1968年ジュネーヴ国際コンクールで最高位入賞、その後たくさんの活動をしている。カザルスホールの「ヴィオラ・スペース」の企画・演奏や、「インターナショナル・ヒンデミット・ヴィオラ・フェスティバル」の音楽監督を務めるなど、ヴィオラ奏者としては世界の第1人者である。
最初の曲、テレマンの「12のファンタジー」の第1音から、このホールはヴィオラのために作られたのではないかと思うほどのいい音で始まり、バッハの「チェロ組曲2番(全曲)」など、最後の「シャコンヌ」までの7つの曲が演奏された。
この曲はヴァイオリンの高音の切れ味が特徴と思うが、ヴィオラの音を最初は「違う」と感じながら聴いていたが、そのうちに引き込まれた。そして14分少々の演奏はあっという間に終わった。
当夜の2曲目の西村 朗編曲の
「ヴィオラ独創のための『鳥の歌』による幻想曲」はすばらしい演奏だった。『鳥の歌』はパブロ・カザルスが故郷のカタルーニャ地方の民謡を採譜したもの。