■絵本「りゅうのめのなみだ」
06年4月26日の朝日新聞のコラムで、俵万智がこの絵本を紹介している。この絵本により、彼女と子供との会話がはずみ、子供とのふれあいが深まる様を紹介している。
以前からこの絵本を見たいと思っていたが、図書館でも絵本のコーナーへ行くことはなかった。最近、市の図書館のシステムが変更になったのを知り、自宅から検索して、この絵本の存在を知った。図書館のカウンターで案内するひとが親切で、原作が掲載されている「ひろすけ幼年童話文学全集」も絵本とともに収蔵庫から持ってきてくれた。
絵本の原作は、大正14年(1925年)の作で、「なみだの川」と言う題のおはなし。「初等教育研究」に発表になり、後日現在の題に変えられたそうである。
作者の浜田廣介は「本当の愛の心に根ざしてはじめて勇ましい行動がとられること、そして、それが行われると、どんな者でも感動をうけるであろう、ということを作品のねらいとしました」と言っている。
<ものがたり>
南のほうのある国の山の中に龍が棲んでいるといわれていた。
龍は凶暴なるがゆえに、人に嫌われ憎しみを受けてきた。
龍に同情した少年が山の谷間に龍をたずねて行き、誕生日に町へ招待したいと言う。
りゅうは少年の深い哀れみに心をうたれ、目から涙を流す。
龍の涙があふれて川になり、龍は少年を背中に乗せて、川を泳いで町へ向かう。
龍の体は黒い大きな船となり、少年は船に乗って町へ戻ってくる。
絵本では、「文章をつづりなおして、もとの長い作品を適度の量にちぢめました」と作者は書いている。「ひろすけ幼年童話文学全集」では、黒い大きな船は蒸気機関であることを暗示している。
「龍の謂れとかたち」の収集をはじめてから、絵本「龍のはなし」を読み、今回は「りゅうのめのなみだ」を読んで(見て)絵本の持つ力を感じた。子供を相手にしていることから、シンプルでわかりやすい。また、絵を通して想像を掻き立てるものがある。とかく難しく表現をしてわかりにくくしている大人たちも見習うところがあるように思う。
子供たちの世界で、こちらから優しい言葉をかけると、どんなに意地悪な人でも素直に話を聞いてくれるであろうと言うのは、このお話が書かれた大正時代の考え方であり、いじめが社会問題となっている今日の子供の世界では通用しない考えであろうか。
メルマガ第118号に書いた「龍のはなし」を子供とともに読んだお母さんたちの感想や、本を通しての子供とのふれあいの様子などを読んでいると、「絵本」の持つ力を感じる。「アニメ」にもない深く広い感動を与えてくれるところに絵本の価値があると思う。
子供の日も近い。この絵本は、お孫さんへのすてきな贈り物になり、お孫さんとの会話が弾むこと請け合いです。【生部】
<作者について>
浜田廣介(はなだひろすけ)
1893年山形県に生まれ。大学卒業し出版社勤務後文筆生活に入る。「椋鳥(むくどり)の夢」、「ひろすけ童話絵本」などが代表作。1973年に死去
いわさきちひろ
画家。1918年福井県生まれ。絵本「ことりのくるひ」、「戦火のなかの子どもたち」など童画の世界で多くの作品を生む。1974年死去。
<本について>
全集:集英社 1962年 1月11日初版
絵本:偕成社 1965年11月 1日1刷
「龍の謂れとかたち」は
こちらをご覧ください。
サイズ:絵本は268mm×210mm、全集は224mm×154mm
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