編集後記集
【メルマガIDN 第128号 070801】

ポルトガルのドラゴンエース
 2006年の4月に、横山恵一氏を講師に招いて「カードが語る文化史」という題で話を聞く機会があった。氏は、中央公論社の「歴史と人物」や「婦人公論」の編集長を経て中央公論社の取締役を勤めた方で現在は著述業をされているが、カルタの収集家としても有名。

 当日は、トランプを集めることを始めたきっかけから話が始まり、トランプの歴史、日本へのトランプの伝来、日本でのトランプやカルタの普及の歴史など多岐にわたる話があった。
 ポルトガルから伝えられたトランプを模して「天正カルタ」が日本で作られ、現存する1枚のカードをもとに400年後に復元したことなど、興味の尽きないものだった。その日の講演の中でポルトガルのトランプの「ドラゴンエース」に興味を持った。

 私は「龍の謂れとかたち」をホームページにすることを始めたところで、先行きの予測も出来ない時ではあったが、懇親会の席上で挨拶をし、後日の協力をお願いし、頂いた名詞と「図説カルタの世界」(監修:江橋 崇  横山恵一  平成14年大牟田市立三池カルタ記念館発行)を大切に保管していた。

 本年6月に、横山恵一氏を講師に招聘したHさんに横山恵一氏へ紹介してほしいと頼んだ。Hさんはまもなく「直接話をするように」と道筋をつけてくれた。
 お願いの手紙を出したら、すぐに承知した旨の電話があり、「図説カルタの世界」の写真を使用する許可を大牟田市立三池カルタ記念館(実際は大牟田市教育委員会)よりもらうようにとの指示があった。
 記念館へ電話したら、親切なKさんが対応してくれて、メールで申込書を送ってくれた。早速記入して、メールで返送し、押印したものを郵送。およそ約1週間後に、大牟田市教育委員会より「資料撮影等許可書」が送られてきたので、お忙しい中、無理をお願いして桜上水の横山邸を訪問した。

『うなゐの友 第七編』(大正6年5月発行)より龍がデザインされている「うんすんカルタ(5枚)」、『ポルトガルの龍』の表紙に掲載されている3枚のカードの龍、『賭博史』(大正12年5月半狂堂発行)よりモノクロの「うんすんカルタ」を撮影。最後に横山恵一氏秘蔵の19世紀半ばにポルトガルで作られたカルタの現物の中より4枚のドラゴンエースを撮影させてもらった。


19世紀半ばにポルトガルで作られたカルタのドラゴンエース 【横山恵一氏秘蔵のカルタを複写】
左より、ハウ(棍棒)・オウル(貨幣)・イス(剣)・コップ(聖杯)

 では、大牟田市教育委員会より写真を使用する許可もらった「図説カルタの世界」と横山氏より得た情報をもとに、龍にまつわるカルタの世界の一端を紹介してみよう。

由来
 天文12年(1543)にポルトガル船が種子島漂着し鉄砲が伝来したのは日本史の中で良く知られている。以来、ポルトガル人が九州の各港に来航し、キリスト教や鉄砲などとともに「カルタ」もわが国へ伝えられた。ポルトガルのカルタには、4枚のエース札に龍が描かれ、ドラゴンエースと呼ばれ、デザイン上の特徴となっている。

天正カルタの復元
 ポルトガルからもたらされたカルタの実物は、ポルトガルでもわが国でも発見されていない。摸してわが国で作られたカルタが1枚、兵庫県芦屋市の滴翠美術館に現存しているのみである。天正年間(1573~1591)に作られたことから、俗に「天正カルタ」と呼ばれている。「日本のカルタを研究している者の夢は、天正カルタを眼にし、手にすることである」といわれている。大きさは縦6.3センチ、横3.4センチ。
 三池カルタ記念館は平成3年に「天正カルタ」1セット48枚(4スーツ×12枚)を400年ぶりに完全復元した。京都で今も手作リカルタを手掛けている職人に復元製作を依頼。サイズは現物よりひとまわり小さく、カルタというよりトランプ(カード)に近い。トランプのスーツ(紋標)はスペード・ハート・ダイヤ・クラブであるが、「天正カルタ」では、イス(剣)・コップ(聖杯)・オウル(貨幣)・ハウ(棍棒)である。

うんすんカルタ
 「うんすんカルタ」は元禄年間(1688~1704)に考案された和製のトランプ。天正カルタの4種類のスーツに巴紋が加わり、数を15まで増やして合計75枚(5スーツ×15枚)。絵札(10~15)の中に鎧兜の武者や七福神の恵比寿・大黒・福禄寿などが含まれている。
 「うんすんカルタ」は幕府公認のカルタで 遊戯性の強いものだったが賭博の道具にされたため寛政の改革で全面禁止、約100年で消滅。
ポルトガル語でウンはエースの1、スンは最高を意味し、遊戯中、切り札のエースと最強の絵札を出すとき「ウン」とか「スン」と声を掛けた。

『ポルトガルの龍』(英文 B6版 74ページ)』に見る古い時代のドラゴンカード
 シルビア・マンとヴァージニア・ウエイランド著により1973年に出版された本。表紙にある、3枚の龍のカードを撮影し、横山氏より、「この本を読みなさい」と言ってコピーをいただいた。表紙に3枚の龍のカードについて、本文の中での挿絵の説明に、「17世紀に作られたポルトガルのカルタ デザインは1600年より以前に日本でコピーされた」とある。また、日本にかかわる記述があり、「天正カルタ」や「うんすんカルタ」についても述べられている。

 以下は、私の勝手な推測。1543年にポルトガル船が種子島に漂着 その後ポルトガル人が九州の各港に来航。1600年より以前に、デザインが日本に伝えられ、「天正カルタ」に使われた。芦屋市の滴翠美術館に保存されている当時のカルタ(1枚のみ存在)のデザイン(周辺に斜線の縁取りがある)が類似している。

スーツ(紋標)について
 トランプのスーツ(紋標)はスペード・ハート・ダイヤ・クラブであるが、海外で使われているスーツは似通っているところもあるが、正確には異なっている。
 カルタ(トランプ)の札の強弱は、
刀剣=スペードは貴族ないし騎士、聖杯=ハートは僧侶、貨幣=ダイヤは商人、棍棒=クラブは農民
この順位になっており、中世の身分階級を示している。日本の士・農・工・商と順序が異なっているのが面白い。
 スペード~クラブのマークは15世紀ころフランスで考案された。デザインがしゃれている上に一目で種類がわかり、しかも印刷に手間がかからないことなどから、やがて世界で広く用いられるようになったという。
 
 撮影の後、コーヒーをご馳走になりながら、『龍の歴史大辞典』やいくつかの龍に関する文献紹介記事などの資料をいただいた。これは私のために事前に調査をしてくれたもの。
 私の「龍の謂れとかたち」の収集状況を理解した上で、「今日はこんなところで。もし、カードの龍に特化して収集し、調べるのであれば、もっとありますよ」とおっしゃった。

 横山氏に、IDNのふれあい充電講演会で、「カードが語る文化史」について講演してほしいとお願いをしたら、即座に断りの返事をもらった。「歴代海軍大将全覧」を既に上梓したが、現在は「陸軍大将」を執筆中で、昼夜逆転の生活をされているとのこと。
 丁重にお礼を言って横山邸を辞した。【生部】

興味のある方は、ドラゴンカードの写真などをご覧ください。
URL:http://ryuss.cocona.jp/ryu-iware/karuta.htm

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