ヨーロッパで出会った龍と仲間たち 【その3】ガウディのサグラダ・ファミリア教会のガーゴイル
ガウディのサグラダ・ファミリア教会へは2回行った。最初は、2004年にピレネーへ行った帰りに、バスで教会を一周し、《生誕(降誕)の門》の前でバスを2~3分止めて車窓から見た。そして、2007年の秋には内部に足を踏み入れた。 サグラダ・ファミリア教会との出会い
私が最初にサグラダ・ファミリア教会を知ったのは1960年代の中ごろの大学の1年の時。今井兼次先生(1895-1987)が講義の中で紹介してくれた。 今井先生は、建築家であり、建築科の教授として48年にわたり教鞭を執った。1956年に日本ガウディ友の会を設立し会長になっている。ガウディの作品の価値や魅力を見出し、日本にガウディを最初に紹介した人。 以来、サグラダ・ファミリア教会には興味を持ち続けており、2007年には念願がかなって、1882年に起工式が行われてから125年後の教会の全貌を見ることができた。 そのときに、展示スペースの一角で偶然に見た展示《今井兼次の世界》については、メルマガIDN第136号に書いている。 《生誕の門》と《受難の門》 クラッシックな様式の《生誕(降誕)の門》は、観光写真の定番として長いこと使われてきた。現在は、スビラックスがコーディネートした、《受難の門》が出来上がり、ファサードを構成するモダンな様式が目を引く。なお、日本人で有名になった彫刻家の外尾悦郎氏はクラッシックな様式のほうを担当している。 正面の栄光の門はこれから作られることになっているが、様式についてはまだわからないとのこと。 龍の仲間 ガーゴイル(gargoyle) サグラダ・ファミリア教会を訪れるにあたって、ガウディが配した動物たち《龍の仲間たち》を見るのも楽しみのひとつだった。 ガウディは、サグラダ・ファミリア教会において、植物や動物を単なる装飾としてだけではなく神秘的なシンボルとして用いた。 サグラダ・ファミリア協会の後陣のファサードには身近な動物を《ガーゴイル》として配している。 《ガーゴイル(gargoyle)》とは怪物をかたどった中世以降の彫刻であり、ほとんどが背中に翼をもったグロテスクな姿である。 ガーゴイルという言葉は、「屋根から水を流しだす」という意味で使われており、ノートルダム大聖堂など教会の建物の屋根にも設置され、雨樋から流れてくる水の排出口としての機能を持つ。 ゴシック様式では、《ガーゴイル》は想像上の悪魔のような形をした姿をとるのが普通だったが、ガウディは身近な動物で伝統的に悪と結び付けられる両生類や爬虫類を用いた。サグラダ・ファミリア教会でも《ガーゴイル》たちは、水の排出口の役割を担っている。 後陣のファサードに取り付けられた《ガーゴイル》は、教会の中に入るのを許されず、マリアのシンボルが放つ純潔から逃げるように下向きになっている。 図に示すガーゴイルの中で、サラマンダーが龍に最も近い仲間と思われる。サラマンダーは地水火風の属性のうち《火》を司り、《四大精霊》のひとつにも数えられ《火トカゲ》の名前で呼ばれる。フランソワ一世の居城シャンボール城の火を噴くレリーフは有名である。 ガウディのほかの作品に見る龍 サグラダ・ファミリア教会では、《ガーゴイル》としての龍の仲間たちを紹介したが、ガウディは他の作品にも《竜(ドラゴン)》を扱っている。 《カザ・フェルナンデス》の建物のファサードには、《聖ホルヘ(ゲオルギウス)像》の彫刻が置かれている。これは、キリスト教の世界で典型的な、聖人が悪しき《竜(ドラゴン)》を退治している姿である。 そのほか、ガウディが設計したグエル(グエイユ)公園の正面入り口にある動物は、サグラダ・ファミニア教会のガーゴイルの仲間とみてもいいであろう。これはトカゲかヤモリかわからないが、実に愛らしくてきれいである。 バロセロナの地下鉄3号線のリセウ駅の近く、ランブラス通りからはいったところに、レイアール広場がある。レイアール広場の真ん中には噴水があり、その隣にガウディの作品である街灯がある。この街灯はガウディが最初に手がけたものといわれている。レリーフは明らかに蛇に見えるが、龍の仲間に加えておく。 龍には、善い龍と悪い竜(ドラゴン)がある、と私は勝手に整理している。キリスト教の世界で、聖人が悪い竜(ドラゴン)を退治する事例より、サグラダ・ファミリア教会の《ガーゴイル》を連想して、龍の仲間として今回取り上げた。 《グエル別邸》の門の扉にある龍のレリーフは、力強く、迫力あるものであり、グエル別邸をしっかり守っている。これは、ガウディが設計した善い龍の例である。
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