神社仏閣の手水舎と龍
【メルマガIDN編集後記 第209号 110101】

 龍に興味を持って、出会った龍と仲間たちを私のホームページ《龍の謂れとかたち》で紹介しており、《手水舎の龍》もその一翼を担っている。新年に神社にお参りに行かれる方も多いので、今回は《手水舎》での作法や、吐水口の役割を担っている龍を紹介する。
 神社や仏閣では、鳥居をくぐったところの参道脇、または社殿の手前に手水舎がある。手水舎は、お参りの前に手を洗い、口をすすいで身を清める場所のことで、《てみずや》または《ちょうずや》」と呼ばれる。


浅草の金龍山浅草寺の八体の龍:東京都台東区


深川不動堂の三体の龍:東京都江東区


本法寺の石造龍吐手水鉢:横浜市港区


法隆寺の南大門から入り、正面の中門と五重塔前にあう手水舎
【写真提供:《ブログ/冬青(そよご)風》の竜馬16さん】


妙法寺の手水舎の龍:東京都杉並区


手水舎の由来と起源
 古来、神社に参拝するときに、近くを流れる川の水や湧き水で手を清めていた。しかし、清流や湧き水が神社や仏閣の近く確保できなくなり、それに代わるものとして境内に手洗場を設けるようになったのが手水舎の起こりといわれている。伊勢神宮を参拝する人々が五十鈴川の御手洗場(みたらし)で身を清めるのはこの名残である。

手水舎での作法
 手水舎でどのようにして手を洗い、口をすすいで身を清めるか、迷うところであるが、手水舎に案内版があればそれに従えばいい。しかし、実際に参拝客の様子を見ていると、作法を守っている人は少ない。

手水舎での作法を以下に示す。
・右手で柄杓の柄を持ち、一回で手水(ちょうず)を掬う
・左手を洗い清める
・柄を左手に持ち替え、右手を洗い清める
・再び右手に柄を持ち替え、水を左手の中に溜め、口をすすぐ
・もう一度、左手を清める
・最後に柄杓の柄を下方に立てるようにし、清水を流し柄杓をすすぐ

 口をすすぐ時には、柄杓に口をつけないようにするがマナーだが、実際には柄杓を直接口に運び水を含む人が意外に多いが、これは作法違反である。

手水舎
 多くの手水舎は、四方転びの柱が用いられ、四方が解放されており、その中に水盤が据えられている。水盤は通常、石材のものが多いが、鉄や木などを用いたものもある。

 《龍》に着目してみると、吐水口に龍が多く用いられているが、成田山新勝寺のように、水盤の側面に龍の彫刻を施しているものもある。

手水舎の龍
 手水舎に置かれている龍は、一体が独立しておかれているものが最も多いが、豊川稲荷(東京都港区元赤坂)の手水舎の龍のように二体の龍が絡み合っているもの、龍の数が多数のものなど、種類は多い。

浅草の金龍山浅草寺:東京都台東区
 金龍山浅草寺の手水舎では、円形の水盤に8体の龍が配されており、8名が同時にお浄めをすることができる。これまでに出会った手水舎の中では最も規模が大きく、龍の数が多い。

 浅草寺の手水舎では円形の水盤の中央に、高村光雲作の沙竭羅竜王像(さからりゅうおうぞう 明治36年奉安)が置かれており、像に龍が巻きついて、頭上に龍の頭がある。
 この手水舎では、建物の天井に立派な龍の絵が描かれている。

深川不動堂:東京都江東区
 深川不動堂の本堂の前の左側に《深川龍神》が祀られており、そのそばに手水舎がある。ここでは独立した3体の龍が並んでおり、三体の龍の口より水が注がれている。

本法寺の石造龍吐手水鉢:横浜市港区
 手水舎の龍は、銅の鋳型で成形されているものが大半であるが、石に刻まれた龍もあり、手水舎の龍を求めているものにとっては、珍しい部類に属する。

 本法寺の《石造龍吐手水鉢》は、水穴にわだかまる龍と、側面に胴体を絡ませて首をもたげる龍の2体の龍と鉢を一石彫成したものである。上方の龍の胴体に管孔を通して龍口から水を吐く構造になっている。

 巨石材を用いた一石彫成の手水鉢は、意匠性にすぐれ、伝統的石彫技術を誇る近代石造物として横浜市指定有形文化財(石造建造物)となっている。石工は、名工の誉れ高い内藤慶雲(溝ノ口)と松原祐太郎である。

 石に刻まれた龍の例としては、平安神宮の大鳥居をくぐって、應天門(神門)を抜けたところに、白虎(西側)と対に置かれている蒼龍(東側)がある。

 井の頭公園(東京都武蔵野市御殿山)の井の頭弁財天の本堂の裏手には、銭洗い弁天の石の龍がある。

一体型の珍しい龍
 最も標準的な一体型の龍にも工夫を凝らしたものがある。法隆寺の南大門から入ると正面の中門と五重塔前に手水舎がある。これは、存在感のある立派な龍である。

 最近出会った妙法寺(東京都杉並区)の手水舎の龍は銅製としては形も大きく、凝った作りになっている。
 天明2年(1785年)日研上人が渇水のために掘った井戸が、未だに枯れることなく清水をたたえている。妙法寺の水屋とされる所以もここにあり、《天明の水》と呼ばれている。

ハイテクでエコな手水舎
 手水舎の中でも珍しいものがある。普段は龍の口から吐水していないが、人が近づくと吐水するものがある。
 東京大神宮(東京都千代田区)のアプローチの石段をあがって、鳥居のまえの右側に手水舎がある。手水舎の龍の水吐口は何の変哲もないが、正面に立つと龍の口より水が出る。センサーを利用して、送水弁を操作するものである。
 このような仕掛けの手水舎を大円寺(東京都目黒区)でも見た。私が出会ったのはこの2例のみであるが、ほかにもあるのだろうか。

エピローグ
 《龍の謂れとかたち》で、出会った龍と仲間たち紹介しているが、《手水舎の龍》についても、20例ほどになった。時間がなくて作業ができず、年末と年始にアップを予定しているものが数例ある。

 今回紹介している法隆寺の手水舎の龍は、《竜馬16さんのブログ/冬青(そよご)風》で写真を見つけて、ご本人の了解をいただいて掲載した。竜馬16さんは、自分のブログにある東大寺の二月堂の手水舎の宝珠を銜えた立派な龍の写真も紹介してくれた。
 このように、最近では龍情報を教えてもらったり、龍グッズのお土産をいただくことも多くなった。ホームページにアップするためには、それなりの作業が必要で、そのための時間が不足していて思うに任せない実情にある。【生部圭助】

それぞれの手水舎の龍については、龍の謂れとかたちの《030 手水舎》よりご覧ください

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