燈籠の龍

【メルマガIDN編集後記 第220号 110615】

 龍に興味を持って、出会った龍と仲間たちを私のホームページ《龍の謂れとかたち》で紹介している。第172号では《東京三鳥居》と呼ばれている、柱に龍の彫刻が施されている珍しい鳥居を紹介し、209号では《手水舎の龍》を紹介した。龍との思わぬ出会いと、龍に関する雑学の中より、今回は燈籠の龍を紹介する。


上野東照宮の銅燈籠  向かって右側の3体も含めて国宝



燈籠の部分名称(主なもの)


上野東照宮の銅燈籠
国宝

グランドプリンスホテル新高輪の銅燈籠
竿に龍を絡ませた珍しい例

大蔵集古館の銅燈籠

葵の紋がある

鍋島松濤公園の石燈籠
中台に十二支の彫刻


勝妙寺の石灯籠
中台に龍の彫刻

日枝神社の燈籠
基壇が大きい

蕨手と降り棟に配された龍 靖国神社の銅燈籠


上野東照宮の銅燈籠龍の彫刻(中台部分)


鍋島松濤公園の石燈籠の巳と辰の彫刻(中台部分)


水戸東照宮の銅燈籠龍の彫刻(基礎部分)

燈籠とは
 もとは文字通り、燈(あかり)籠(かご)であり、街灯や道標の役割をしていたもの。つり燈籠と台に建てる台燈籠に分かれ、台の材質により、金属燈籠(銅燈籠等)、石燈籠の種類がある。現在では、神社仏閣で神仏に献灯するためや庭園の観賞用など、装飾が目的になっているものもある。

燈籠の代表的な種類
・春日型:神社仏閣で多く見られるもので実用性も高い。竿が長く火袋が高い位置にあるのが特徴。園路沿いに設置するのが一般的。

・雪見型:雪見とは《浮見》が変化したもの。竿と中台が無く高さが低い。主に水面を照らすために用いられるので笠の部分が大きく水際に設置することが多い。

・岬型:雪見型から基礎部分(足)を取り除いたもの。州浜や護岸石組の突端に設置する、灯台を模したもの。

・織部式燈籠:つくばいの鉢明りとして使用する、四角形の火袋を持つ活込み型の燈籠。高さの調節が可能であり、露地で使用される。奇抜な形から江戸時代の茶人・古田織部好みの燈籠ということで《織部》の名がついている。

灯籠の部分名称
 福地謙四郎著の『日本の石燈籠(理工学社 1978発行)』によると、燈籠の各部位について細かく名前が付けられている。図に燈籠の主要な部位の名称を示した。

・宝珠(擬宝珠):笠の頂上に載る玉ねぎ状のもの。

・笠:火袋の屋根になる部分。六角形や四角形が主流であるが雪見型の円形などもある。多角形の場合は宝珠の下部分から角部分に向かって線が伸び、突端に蕨手という装飾が施される。

・火袋:灯火が入る部分で燈籠の主役部分。装飾目的の場合は火をともすことは無いが、実用性が求められる場合には電気等により明りがともされる。

・中台:火袋を支える部分で最下部の基礎と対照的な形をとる。蓮弁や格狭間という装飾を施すことがある。

・竿:長い柱の部分。円筒状が一般的であるが、四角形、六角形、八角形のものも見られる。節と呼ばれる装飾が用いられる。雪見型に代表される背の低い灯籠では省略される。

・基礎:最下部の足となる部分。六角形や円形が主流。雪見型燈籠などでは3本や4本の足で構成される。

金属燈籠の龍
 これまでに収集した龍の彫刻などのある燈籠は14体(内3体が石燈籠)を数える。燈籠に対して、龍が施される場所はおおよそ決まっている。
 上部から見ると、笠の突端の蕨手、宝珠から蕨手に向かっておりる降り棟(くだりむね)と呼ばれる部分に龍をあしらったものもある。写真は靖国神社にある銅燈籠の例を示している。

 中台と基礎の部分に龍の彫刻が施される例が多い。中台や基礎は、六角形や八角形をしており、各面に龍の彫刻が配されている。面の数は偶数であり、龍は正面を向いているものと、見返りの龍が交互に配されている。

 中台にある龍として、上野東照宮の銅燈籠(国宝)を、基礎にある龍の例として水戸東照宮の銅塔を紹介している。
 上野東照宮の銅燈籠の中台は八面になっており、4体の正面を向いた龍と4体の見返りの龍が配されている。各4体が同じであるか、現地ではほとんど区別ができない。銅燈籠においては鋳型を作成して、そこに流し込む方法がとられているとおもわれるが、実際に撮影した写真を比べてみると、微妙に異なっているものもある。

 燈籠は、拝殿の前などに左右が対で置かれることが多いが、左右の燈籠の龍を比較してみても、似通っているが、微妙に差がある。

 上野東照宮の唐門には、左甚五郎の有名な龍の彫刻がある。この二体の龍は、上り龍と降り龍であり、燈籠における龍は、上り龍と降り龍を横向きにしたようにも見える。実際に燈籠の龍の写真を90度回転させて左甚五郎の龍と並べてみてそのように感じた。これは、あくまでも私見である。

 グランドプリンスホテル新高輪の庭の奥、茶寮《恵庵》へ行く途中のお堂の門の前に対の銅燈籠がある。燈籠の竿の部分に龍がまきついている例は珍しいので紹介する。

 私が見た龍の彫刻のある燈籠には、葵のご紋のあるものがいくつかある。上野東照宮の唐門の前、水戸東照宮の拝殿正面の手前、大倉集古館の入り口の門のところにある燈籠に葵のご紋を見る。
 燈籠の裏面(竿のところが多い)には、奉献者名や奉献年代が刻まれているが、よく見えない場合が多い。上野東照宮の社務所でいただいた、《上野東照宮燈籠配置図》によると、慶安4年に徳川御三家が各2体ずつ奉献して、左右に対で配置されていることがわかる。中央に近いところから、紀伊、水戸、尾張の順になっているのは、当時の御三家の格の順番であろうか。

石灯籠の龍
 石灯籠の例としては、鍋島松濤公園の奥にある石燈籠、龍王山勝妙寺(佐賀県小城市)の本堂の前にある石燈籠、靖国神社の第2鳥居の手前にある石燈籠の3対を私のホームページで紹介している。

 この3つの例では、いずれも中台に龍の彫刻が施されている。鍋島松濤公園と靖国神社の燈籠には十二支が彫られている。中台の6つの面に十二支が配されており、巳と龍(辰)が並んで配されている。
 龍王山勝妙寺の燈籠でも中台に龍が彫られている。中台は6面になっており、二つの面にまたがって一体の龍が彫られ、左右の燈籠で合計六体の龍を見る。

 石燈籠の龍の彫刻は、一体ずつ彫ることから、銅燈籠の龍に比べ、配置や構図に統一感はあるものの、形状については自由度が高いように見える。

エピローグ
 2009年9月に法事のために帰省し、菩提寺の勝妙寺の山号が《龍王山》であることを始めて知り驚いた。幼少の頃より、うちのお寺さんは《勝妙寺》であり、先代の住職からお世話になっている。《勝妙寺》で龍の彫刻のある石燈籠に出会ったのも奇遇である。

 住職によれば、この燈籠は平成19年5月に檀家のUさん一家より寄贈されたとのこと。石屋さんが運び込んで設置したものであり、どこで彫られたものかは聞いていない、日本では石に龍を彫る職人が不足しており、中国の職人の手によるものかもしれない、値段についても知らされていない、とのことだった。