オーストラリアからの竜の便り~葦で造った竜~

【メルマガIDN編集後記 第242号 120515】

 今年は辰年。2006年に《龍の謂れとかたち》のサイトを立ち上げて、ページの更新を続け、最近、《龍の謂れとかたちのブログ》を公開してみると、ホームページを見た人からメールが来るようになり、ブログに書き込みがあるようになった。そんな中で、予想もしなかった方よりの便に驚くこともある。今回はオーストラリアの丹羽 基之さんからの龍の便りを紹介する。

オーストラリアの丹羽 基之さんからのメール

 2012年の1月の終わりころに、2枚の写真が添付されて下記のメールが飛び込んできた。
 こんにちわ。初めまして、オーストラリアに住んでいる丹羽と云います。地道に調べていらっしゃいますね。私は昔から竜に興味を持っていて、葦でこんなものをつくっています。近在のギャラリーから、3月に開催されるフェスティバルで劇場に何か展示できないかというので、干支にちなんで造っています。完成したらまた写真を送りましょう。
丹羽 基之 www.mufarm.net

 お礼のメールを送ったら、すぐに、「ファイルをみたらこんなモノも出てきました」とのコメントと共に、《翼龍》と《白龍》の写真が送られてきた。

西洋の感覚に合うようにつくられた翼龍


白龍 子供3人を含めた7人編成で操る


白龍の長さは12mほどで,重量は全部で15kgくらい
葦で創られた骨組みにテキスタイルをかぶせる


完成したドラムスコ


緑を背景にドラムスコを吊り下げる


丹羽 基之さん
 最初のうちは気楽にメールを送っていたが、ネットで丹羽 基之さんのことを調べてみて驚いた。
 丹羽 基之さんのサイトは、英語で作られているが、日本語に要約されたページもあり、活動内容のあらまし知ることができた。

1954横浜に生まれる。
洋画を古川益弘、書を故・吉田蘭処・丹羽蒼処、能を高橋章、茶道を楠原さき氏、能小鼓を故・大倉長十郎、編集工学を松岡正剛に師事。
染織悉皆および染織コーディネートを東京人形町「岩和佐」にて修行、横浜キモノ・エドヤにて染織デザインおよびアートディレクション担当、東京NIDCにてプランニングに従事、鎌倉にてグラフィック・デザインオフィス設立・経営。

1994年にオーストラリアに移住、彫刻制作活動に入る
2004年までの10年間の第一期>
 ブリスベンを拠点に彫刻・音楽の分野で活動。30年以上に亘る、能・書道・染織・太鼓などの日本の伝統芸能・工芸・芸術などでの経験を生かし、オーストラリア人が日本文化を体験し応用できるワークショップ・プログラムを作成。
 クイーンズランド州立図書館をはじめ州立教育機関、クイーンズランド芸術審議会の遠隔地巡業ツアー、各地の地方自治体ギャラリー、様々な大学およびクイーンズランド全域でのフェスティバルなどで活動する。特に遠隔地の学校や先住民自治区などでレジデンスワークショップを行う。

2004年からの第2期>
 サンシャインコーストの内陸部に本拠を移す。無農薬・有機農法に重点を置いた生活を実践。
 フリーランスの文化・芸術コンサルタントとして近隣の地方自治体をクライアントとする。環境問題のポリシー作成、シビルエンジニアリングへの芸術インプット、コミュニティ・プロジェクトの企画・開発・コーディネートおよび遠隔地・若者・老人・身体障害者などを対象としたアート・ワークショップを行なう。

翼龍
 翼龍は西洋の感覚に合うようにつくられたもの。西洋では飛ぶということを具体的に説明するために翼が与えられた。アジアの龍は天に住まうもの、天を覆う程に大きな存在が雨を降らし、川を氾濫させもする。飛び方は西洋と東洋は根本的に違っている。

白龍
 七人編成で操演しているこの《白龍》は和龍。長さは12mほどで、重量は全部で15kgくらい。パペットの頭は80cmくらいの大きさで、葦で創られた骨組みにテキスタイルをかぶせる。
 中国の龍とは全く異なる飛び方をするのではないかと考えながら、緩やかに飛翔する感じを出すように操演の指導がなされている。操演はクイーンズランド州サンシャイン・コースト在住の12歳から45歳までの7人の有志。
 新しくオーストラリア人となった市民を祝う州政府のイベントでクイーンズランド州政府のプレミアとブリスベン市長やVIP などの先導をつとめた。

ドラムスコ
 《ドラムスコ》は干支にちなんで、2012年3月に開催されるフェスティバルで、劇場に展示するため、近在のギャラリーからの依頼によりつくられた。
 「完成しました。山椒は小粒でピリリと辛い。つくっている間は雨と嵐と洪水で、終わったら青空です」。
 これは《ドラムスコ》が完成した時の丹羽 基之さんの感想。

オーストラリアにおける龍
 「ヨーロッパの竜(ドラゴン)は邪悪なものとされ、東洋(中国)では龍は神獣として位置づけられています。オーストラリアでの《龍》はどのような位置づけでしょうか?」という問に対する丹羽 基之さんの返事。
 「オーストラリアの教育はイギリス/ヨーロッパの観点であり、年配者にとって龍は退治すべきモノという存在です。但し過去10年くらいの間で、フェアリーショップといって妖精などを扱う店では、水晶などの石と一緒で、竜は置物として人気がありますし、刺青や武器のモチーフとして広まりつつあります。特に映画やアニメーションやパソコンゲームの影響でしょうか、若者層に非常に人気があります。」

エピローグ
 オーストラリアのアボリジニには、《ドリームタイム》という神話に出て来る《レインボー・サーペント》という大蛇がいる。丹羽 基之さんは遠隔地のアボリジニの学校でワークショップをやった時に、子供たちとこの《レインボー・サーペント》をつくったとのこと。

 《レインボー・サーペント(RainbowSerpent)》はオーストラリアの先住民アボリジニ達が崇拝した蛇の精霊の総称。色彩や容姿や部族ごとや登場する物語ごとに異なっている。《虹蛇(こうだ)》とも呼ばれており、主に泉や湖、川などに棲み、水や雨を操る能力を持っており、爬虫類を始めとする水辺に住む生き物を従える。今でも、《レインボー・サーペント》は雨季をもたらす神としてオーストラリアの各部族の間で崇められている。
 龍に近い龍の仲間ともいえる《レインボー・サーペント》や、丹羽 基之さんがお持ちの龍に対して一家言については別の機会に譲ることにする。【生部 圭助】

葦で創った竜の写真はこちらでご覧ください
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