カプセル型無人宇宙船《ドラゴン》の快挙

【メルマガIDN編集後記 第244号 120615】

 今年は辰年。これまで、ヨーロッパの《竜(ドラゴン)の系譜》をまとめ、242号ではオーストラリアからの龍のたよりを、243号ではアメリカに飛んでピーター ポール&マリーの《パフ》の話題を取り上げた。今回もアメリカにおける《ドラゴン》という名のカプセル型無人宇宙船にまつわる話を紹介する。《ドラゴン》は2012年5月22日に打ち上げられ、宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、5月31日の朝に役目をはたして地球に帰還した。


カプセル型無人宇宙船《ドラゴン》
カプセルの高さ2.9m  底面直径3.6m



打ち上げ  ファルコン9ロケットから切り離す


ロボットアームにより《ドラゴン》をISSにドッキング


ISSの
Harmony モジュールのポートに結合された《ドラゴン》
ポートの右側の円筒がが日本の有人実験施設《きぼう》


表大気圏に突入し、3つのパラシュートにより着水する
SpaceX社のサイトよりダウンロード用の写真を使用した】


ふれあい充電講演会《宇宙ステーションと日本》
2009年10月30日 講師:樋口周嘉氏

今回のお話の発端は、1989年にさかのぼる
 1989年に、勤めていた会社よりキーマンという役割で、科学技術と経済の会への窓口となった。ここには異業種交流の場があり、国内の有力企業のR&Dの企画や管理の責任者が集まり、活発な活動が行われていた。
 キーマンたちと共にする活動を通じて、異業種のR&Dの企画・管理の考え方や管理の手法についてたくさんのことを教わった。
 また、キーマンの皆さんと共にヨーロッパと米国へのテクノ・エコノミクス調査団に参加したのも思い出深い。
 三菱重工業からキーマンとしてみえていた樋口周嘉さんとはここで知り合った。樋口さんは三菱重工業で宇宙関連の開発の初期より携わっておられた方である。

 各社から参加しているキーマンも、会社での役職が変わると、キーマンの立場を離れることになる。そこで、キーマンのOB会を作ろうという提案がなさされた。以来、このOB会は《TM研究会》として今日まで継続している。
 樋口さんは《TM研究会》のメンバーに、『宇宙茫茫』と題した、世界の宇宙開発情報のサマリーレポートを週に一回メールで送ってくれている。

 編集後記に、カプセル型無人宇宙船《ドラゴン》を取り上げようと資料集めをしているさなか、5月28日の『宇宙茫茫』に「SpaceX、Dragon のFalcon9による打上げとISSとの結合に成功」という記事が紹介された。早速、内容を読ませてもらい、メルマガIDNの編集後記に掲載しても良い写真のありかを教えてもらった。

スペースX社の宇宙船は《ドラゴン》と名付けられた
 樋口さんに、「Dragonと命名した謂れなどご存じないでしょうか?」と質問したら、《space.com》のURLを教えてもらった。
 ここには、「SpaceX社の創設者イーロン・マスク氏が Peter, Paul and Mary の『Puff the Magic Dragon』に因んで名付けた」とある。彼はその理由を、「2002年にSpaceX社を設立した時に、あなたの宇宙への思いはfantasticalです、と言われたから」と語ったと書いてある。

 マスク氏は、宇宙への取り組みを、ファンタジーの域を出ないと言われて、魔法の龍と命名(半ばジョーク?)したとのことだが、私は、善い《龍》はパワフルなものの象徴であり、難関を乗り越えて目的を達成するものだと期待を込めて命名したのではないかと思う。

スペースX社
 米政府は、スペースシャトルが引退後の物資輸送を民間企業に移管し、ISSへの物資輸送・宇宙輸送の商業化を目指す戦略に変更した。米航宇宙局(NASA)はさらに高度な火星探索などに注力する。

 スペースX社は、創業10年目の米国のベンチャー企業。マスク氏がインターネットの会社で稼いだお金で設立したと言われ、CEOのマスク氏は40歳、社員の平均年齢は30歳と若い。
 独自に宇宙船を開発、ファルコン9ロケットも含め、設計から製造までスペースX社が行った。
 スペースX社は、2006年に《ドラゴン》の提案で20社が参加した、商業輸送船のコンペを勝ち抜いた。そして、この5月に、《ドラゴン》の打ち上げに成功し、宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、無事に帰還、一連のテストやデモンストレーションを実施し目的を達した。

無人宇宙船《ドラゴン》
 《ドラゴン》は日本の無人補給船《こうのとり(HTV)》と同等の補給能力を持つ。《こうのとり》は帰途には大気圏に突入して燃え尽きるが、《ドラゴン》は、大気圏突入時にカプセルは燃え尽きないで最大3トンの実験試料や荷物を持ち帰ることができる。
 細くなった先端の完全回収型カプセル部の大きさは、高さ2.9m、底面直径3.6mである。

 《ドラゴン》は、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地より5月22日に、ファルコン9ロケットで打ち上げられた。

 GPSやレーザーでISSとの距離を測定し、衝突の危険がないかを確認しながら徐々接近し、距離10メートルでISSのロボットアームが捕捉し、2時間後の26日未明にISSのHarmony モジュールの地球方向を向いたポートに結合され、ドッキングに成功。
 26日には、ISSの船長ら2人がドラゴンのハッチを開いて乗り込んだ。約521キロの科学実験資材・食糧・水などの物資を降ろし、代わりに、廃棄物や地球に持ち帰る物資を積み込んだ。

 帰還作業の開始から着水までは約6時間の工程だった。まずドラゴンとISSとの結合をロボットアームで解除し放出、地球軌道に入った。
 約5時間後、小型ロケットエンジン《ドラコ》が約10分間燃焼し軌道から外れて地球に落下できるスピードまで、時速320キロほど減速した。
 数分後、ソーラーパネルを含む円柱状のトランク部分(廃棄物を搭載しており、大気中で燃え尽きる)を分離し、3つのパラシュートを開いて正常に降下し、米東部時間31日午前11時42分に、メキシコのバハ・カリフォルニア西方数百キロの太平洋上に無事着水。約660キログラムの物資を持ち帰った。

 米政府の地球低軌道への飛行士の輸送にも民間企業の力を活用する方針に沿って、《ドラゴン》は早ければ3年後に有人宇宙飛行を実現することを目指している。

エピローグ
 SpaceX社の創設者イーロン・マスク氏が、ピーター ポール&マリーの『Puff the Magic Dragon』に因んでカプセル型無人宇宙船を《ドラゴン》と名付けた」ということがわかり、前号の編集後記に書いた《パフ》と今回の《ドラゴン》のお話が偶然につながることになり、うれしくもあり、驚いてもいる。

 2009年10月30日に開催した第91回ふれあい充電講演会で《国際宇宙ステーション(ISS)と日本》と題して、樋口周嘉さんに講演をお願いし、興味深い話を聞かせていただいた。
 ISSは、全長約108.55m、幅約72m、質量約450 トンの宇宙の特殊環境を利用した科学実験や観測を行う実験・研究施設であり、高度約400kmの円軌道を一周90分で地球を周回している。

 ずっとサッカーを続けておられる樋口さんの、「地球をサッカーボール(直径22cm)にたとえると、ISSはサッカーボールの表面から7mmのところ、すなわち、地球表面スレスレを周回している」という説明はわかりやすく、記憶に残っている。

龍の謂れとかたち カプセル型無人宇宙船《ドラゴン》
編集後記集