今年は辰年で、《壬辰(みずのえたつ)》。前回までに、吉祥の《四瑞》として、麒麟・鳳凰・亀・龍、《四神の信仰》で鎮護の役を担う神獣として、青龍・朱雀・白虎・玄武(亀と蛇)について紹介した。今回は十二支と十干について説明し、十二支のなかで唯一実在していない動物である龍(辰)を紹介する。
十二支とは子(鼠)から亥(猪)までの十二の支をいい、十二年ごとに一巡する年回りを示す。十二支の本来は、木星が12年で天を一周することから、中国の天文学で、木星の位置を示すために天を12分した場合の称呼である。 十干(じっかん)とは、甲・乙・丙・丁など、1から10番目までをさすもので、甲(こう:きのえ)から癸(き:みずのと)までの10の干をいい、10年で一巡する。 干支と暦 2012年の干支を正しく言うと、《壬辰(みずのえたつ)》の年ということになる。干支とは十二支と十干とが組み合わされて、60年で一巡する年、あるいは60日で一巡する日をあらわすほか、時刻・歴法・方角などを示すのに用いられている。 自分が生まれた年の干支は、60年後に再びやってくることから、60歳になることを、還暦をむかえるという。還暦の還は《一周してもどる》という意味で、暦は《こよみ》という意味である。 龍(辰)の特徴 鄭 高詠著の『中国の十二支動物誌』(白帝社)に、十二支のそれぞれについて詳しく解説されている。《龍》の章よりいくつかを紹介してみよう。 《龍とは何か》の項では、「龍とはこの世に存在しない、まったく架空の動物で、一種の実態のない概念である」という説明から始まる。龍とは民であり、農業の起源と発展を象徴している」、と続く。 あとは要約して示すと、龍とは崇高を象徴、龍は虹・雲(水とのかかわり)・雷と稲妻・星(星辰)・木(霊木)・恐竜であるとする。 龍は何らかの動物と同定するとして、メルマガIDN第233号で紹介した《三停九似説》、の内容に近い、龍はこのような動物に似ているといった内容が記述されている。 そして最後の16番目に、「龍とは中国の文化の象徴であり、中国人が作り上げた動物であり、自然界には存在しない」と結ばれている。 辰年生まれの性格判断についても書かかれている。「お高くとまっている・傲慢・短期・ワンマン・ぞんざい・自分勝手、のところはいただけないものの、神秘的・バイタリティに満ちている・困難を克服する強さがある・率直・度量が大きい・勇気と意気込みがある・孝行者・家庭を大事にする・目標を持っている・理想を抱いている・忠実・人をねたまない・責任感が強い、とべた褒めは、《龍の七光り》かもしれない」としている。 方位を示す:池上本門寺の五重塔 五重塔は徳川2代将軍となる秀忠公の病気平癒祈願し慶長13年(1608)に建立された。総高約31メートル、和様と唐様の折衷様式の方三間五層塔。 一層の屋根の軒下に十二支の絵が配されている。十二支の絵は塔を上から見たときに右回りに、各面で見ると右から左に配されている。北面の中央に《子》があり、北・東・南・西と周り、北の《亥》に至る。(図を参照) 成田山新勝寺の総門の天井の十二支の彫刻でも、その配置においては、柱間との関係で異形ではあるが本門寺と同じ考え方に則っている。 暦をあらわす:柳森神社の江ノ島弁財天の辰の絵馬 千代田区神田須田町にある柳森神社の境内社《水神厳島神社・江島大明神》に江ノ島弁財天の龍の龍の置物の後ろに絵馬があるのに気がついた。 この絵馬には《昭和戊辰》と書いてあるのが見て取れる。昭和の戊辰(つちのえたつ)は昭和3年と63年であるが、昭和63年(24年前)のものと見るのが妥当であろう。今年の江ノ島弁財天の辰の絵馬を入手し、これもわたしのホームページで紹介している。 時刻を表す:《日本の風》の十二支の絵馬による江戸刻 半蔵門にあった《日本の風》は日本文化に関する展示会、教室、まちづくり、日本研究など伝統文化を尊重しながらも新しい時代にあった日本文化紹介する場を提供していた。壁面に飾られている江戸刻はユニークな時計である。時計では十二支の絵馬が時を示している。この絵馬はすべて軽井沢の神宮寺のものであり、この家の主が12年かけて集めたもの。 十二支を装飾に:鍋島松濤公園にある石燈籠 渋谷区にある鍋島松濤公園は、江戸時代にこの地は紀州徳川家の下屋敷があったところ。この公園の右奥の木立の中の目立たないところに石燈籠がある。 この石燈籠中台(ちゅうだい)の部分に十二支の彫刻がある。中台は6角形をしており、ひとつの面に、子・丑、寅・兎、と順に2つづつの彫刻が施されている。 靖国神社の石燈籠も松濤公園のものと同じ配置になっている。石燈籠の装飾としては、6角形の中台の二つの面に一体の龍が彫られたものもある。 8角形のものに対しては、ひとつの面に2種ずつ配し、4つの面には同種が2体配した例がある。千葉神社の分霊社・尊星殿にその例を見ることができる。 民芸品:薩摩(干支)首人形 龍グッズに注意を払っていると、民芸品や工芸品には、十二支をモチーフにした作品がたくさん目につく。私のホームページでも多く取り上げているが、その中で、薩摩(干支)首人形を紹介する。 首人形は和紙を水で溶かして糊で練り合わせて粘土状にしたものを、割り竹の先に固め、指先で表情を手捻りした紙塑人形。鹿児島に伝承される神話や民話を、遊びを通して子供に伝える一本一本手捻りによる独特な表情で、子供たち、そして大人たちも楽しませてきた。40年前に思い立って薩摩首人形つくりを続けてきた鹿島たかし氏は亡くなっている。 エピローグ 実はメルマガIDN第129号でも《干支談義》を書いている。2007年9月のはじめにスペインのソルソーナ市(バロセロナの北西約125kmのところにある町)で開催されたフェスタ・マジョールで花道会の仲間たちと花展へ参加する前のことだった。 フェスタ・マジョールの当日。市長主催の晩餐会のテーブルで使用してもらおうと持参した《十二支マット》は、会場の係りの人が、汚すのはもったいないと言って、マットを巻いてリボンで結び参加者へのお土産にしてくれた。 十二支占いでは、準備した《生年と十二支の対応表》、《十二支の特徴一覧(英文入り)》により、最初のうちは自分の十二支占いの意味を通訳をとおしてを静かに聞いていた。 途中から、該当する干支の人達が立ち上がり、日本とスペインの面々がお互いに握手をしながら同じ干支であることをたたえ合うシーンが続いて、12番目の亥まで一巡し、盛り上がった。 編集後記集 |