東京国立近代美術館
~美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年~

【メルマガIDN編集後記 第257号 130101】

 1952年12月1日に、京橋の地に開館した東京国立近代美術館は、今年創立60周年を迎えた。この年を記念して、美術館本館の1階~4階の全フロアを使い、日本近代美術の100年を回顧する展覧会が開催されている(2012年10月16日~2013年1月14日)。

 展覧会は2部構成となっており、60年間の収集活動の成果を問う第1部、60年前の日本における近代美術館誕生の時代を考察する第2部で構成されており、両者が緊密に連動して見る人に訴えることを狙っている。
 当館では、所蔵品ギャラリーが10年ぶりにリニューアルされて、所蔵品のハイライトや日本画を堪能できるゾーンが設けられた。休憩スペースもふんだんにとられて、展示室の床や壁の色にも配慮し快適で親しみやすい空間が作られている。


展覧会のチラシ
絵は植村松園の《母子》部分


展覧会のチラシ(第2部)


萬 鉄五郎の《裸体美人》

安井曽太郎の《金芙》

《裸体美人》は
美術館の初年度の
購入品のひとつ


加山又造の《春秋波濤》

原田直次郎の《騎竜観音》
護國寺蔵(東京国立近代美術館寄託)

【写真はすべてチラシを複写したもの】

第1部 コレクションスペシャル
 第1部では、当館所蔵の13点の重要文化財を含む所蔵品のなかより選りすぐりの作品を展示している。明治以降の絵画・彫刻の国指定の重要文化財は51件だそうで、その中の13作品がまとめて一堂に公開されている。

 エレベーターで4階に上がり展示室1(ハイライト)から見始める。いつかどこかで見た記憶のある作品が並んでおり、萬 鉄五郎の《裸体美人》は美術館の初年度の購入品のひとつ。この室には、以前にここで見た原田直次郎の《騎竜観音》や横山大観の《生々流転》も展示されている。

 展示室2(はじめの一歩)では安井曽太郎の《金芙》、展示室3と4(人を表す)では岸田劉生の麗子像が2枚あり、藤田嗣治の《5人の裸婦》、展示室5(風景を描く)では佐伯祐三の《ガス灯と広告》など、ここまでに72点を見たことになる。

 3階に移動して、展示室6(前衛の登場)では古賀春江の《海》、坂本繁二郎の《水より上がる馬》、展示室7と8(戦争の世紀)では戦意高揚のための絵にもスペースを割いている。岡本太郎の《夜明け》もこのゾーンにある。

 石本泰博のなつかしい《桂》などがある展示室9(写真)を経て、展示室10(日本画)に至る。
 2011年に重要文化財に指定された植村松園の《母子》、東山魁夷の《秋翳》、加山又造の《春秋波濤》、高山辰雄の《いだく》など、この展覧会の見どころのひとつである。

 2階の展示室11と12(疑うこと信じいること)では草間彌生や横尾忠則の作品を見る。
 2階の展示室13(海外作品とMOMAT)では、ピカソ、マティス、ミロ、カンディンスキーなどを見るが、当館のコレクションは、日本の作家に分があるように感じる。
 「その他」のいくつかの作品を含めて、ここまで241点の作品の前を歩いたことになる。

第2部 実験場 1950s
 第2部では、50年代美術の精神と活力を、同時期に誕生した近代美術館への含意も込めて《実験場》というキーワードで捉えている。絵画、彫刻、版画、素描、写真、映像を含む作品と資料が展示されている。
 その実験精神が提起した多様な可能性を歴史的に検証、現在の美術と社会の関係を、美術館の未来を考えるヒントを引き出すことを試みている。

 第2部は10のテーマで構成されている。原爆の刻印、生物としての媒体、複数化するタブロー、記録・運動体、現場の磁力、モダン/プリミティブ、「国土」の再編(東山魁夷の《道》はここに展示)、都市とテクノロジー、コラージュ/モンタージュ、方法としてのオブジェ、第2部として296の展示番号が表示されている。

 主催者は、第1部を縦糸に、第2部を横糸にして、両者が緊密に連動してさまざまな感動を投げかけることを意図しているが、私はこの展覧会を面的に捉えきっていない。私は第1部で展示された、当館自慢の収蔵品を見るのに頭も体も疲れており、第2部のそれぞれの展示をじっくりとみるゆとりがなかった。

 入場券は、「所蔵作品展」(工芸館)の入場券も兼ねているが、そこまで足を運ぶには限界を超えていた。日を変えて再入場できる仕組みにしてもらえてらいいのにと思いながら、帰途についた。

エピローグ
 東京国立近代美術館についての昔の記憶にあるのは、《フィルム・ライブラリー》のこと。現在の《フィルムセンター》であるが、当時はこう呼ばれていたと思う。

 文学部の授業に、飯島 正の《映画》の講座があった。田舎にいたころラジオの映画の時間に、声だけで聞いていた飯島 正の講義をなまで聞いた。
 この講座は文学部の専門課程に位置づけられており、理工学部の学生の聴講は許されるはずもない。恐る恐る、あまり受講生も多くない教室に潜り込んだ。知ってか知らずか、先生は何も言わなかった。

 講義で映画についての話もあったと思うが、記憶に残っているのは、「俺は最近こんな本を読んだ」と、その本の内容の話をしてくれたことである。そして、フィルム・ライブラリーでこんな映画をやっているから見てきなさい」と言って、招待券をくれた。
 京橋の近代美術館のライブラリーへ行って、フランスの白黒の無声映画などを見たのが懐かしい。当時見た映画で《貝殻と僧侶》という題名の鮮烈な白黒の映像の記憶があり、ネットで調べたら、1926年に制作されたジェルメーヌ・デュラック監督の作品であることがわかった。
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