東博へ初もうで2013
【メルマガIDN編集後記 第258号 130115】

 2013年の新春に東京国立博物館へ行った。今回で3年続けて東博へ初もうでをしたことになる。今回は3年ぶりに展示された国宝《松林図屏風》が見ものである。昨年の新年には、《東京国立博物館140周年特集陳列 天翔ける龍》が、今年は巳年ということで、《東京国立博物館140周年特集陳列 博物館に初もうで-巳・蛇・ヘビ》が開催されている。今回見たもののなかから、いくつかを紹介する。なお作品の解説は、チラシ、東京国立博物館ニュース、ホームページ、展示の解説などから要約した。


東博:東京国立博物館
公園の広場を整備する工事が終了し、噴水も復活した


長谷川等伯筆 松風図屏風(国宝)が3年ぶりに展示された


尾形光琳筆 風神雷神図屏風(重要文化財) 



十二神立像 巳神
(重要文化財)

よきこと菊の十二支(部分)
辰と巳

松林図屏風
 2011年1月から2012年5月まで安部龍太郎の『等伯』が日本経済新聞の朝刊に連載された。小説では、安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した長谷川等伯が戦国の世にあって「天下一の絵師になる」という夢を抱き画業に打ち込んだ生涯が、歴史的事件を背景に描かれている。小説の終盤では、ついに等伯が《松林図屏風》を描くところがクライマックスとなっている。小説の連載が終了した後、《松林図屏風》を見る機会を待っていたのが実現した。

 《松林図屏風》は、本館2階の南東の隅にある、絵画・書跡の名品をゆったりとした空間で、心静かに鑑賞していただくため特別に設えた国宝の展示スペースに、正月の2週間の限定特別公開された。

 靄に包まれて見え隠れする松林のなにげない風情を,粗速の筆で大胆に描きながら、観る者にとって禅の境地とも、わびの境地とも受けとれる閑静で奥深い表現をなし得た。等伯(1539-1610)の画技には測り知れないものがある。彼が私淑した南宋時代の画僧牧谿の、自然に忠実たろうとする態度が、日本において反映された希有の例であり、近世水墨画の最高傑作とされる所以である。

風神雷神
 尾形光琳筆の《風神雷神図屏風(重要文化財)》は、2011年にも本館の2階の北西の角のスペースに展示されていたと記憶している。
 屏風には天空を疾走する風神と、雷鳴を轟かせる雷神が描かれている。二神は仏教では風雨を司り、仏法を守る役割をもつといわれる。
 左右の2つの画面に配置された二神の視線は互いに交錯し、対照的に配置される。墨であらわされた雨雲からは、今にも雷が鳴り、強風が吹き荒れるかのようである。

 2008年10月から11月にかけて、尾形光琳生誕350年記念《大琳派展~継承と変遷~》が東博の平成館で開催された。風神雷神については、俵屋宗達の国宝、尾形光琳の重要文化財、酒井抱一に加えて鈴木基一が襖に描いた《風神雷神図》の4つが一堂に会する面白い試みだった。

 宗達に対して光琳の絵の違いは、屏風全体の寸法が若干大きい(宗達画は各154.5x169.8cm、光琳画は各166.0x183.0cm)。風神雷神の姿の全体像が画面に入るように配置されており、風神雷神の大きさは同じであるが光琳の方が相対的に小さく見える。

東京国立博物館140周年特集陳列
        博物館に初もうで-巳・蛇・ヘビ

 今年は巳年ということで、昨年の正月に《天翔ける龍》が展示された2室に《巳・蛇・ヘビ》の展示がなされた。展示は四章構成になっており、その概要は下記のとおりである。

第1章 ヘビ:日本と異国の立体造形
 日本をはじめ諸外国で立体的に造られたヘビの、本物にそっくり、神秘的な姿、デザイン性、時代による違いなどの数々が紹介されている。《十二神立像 巳神》も展示品のひとつ。

第2章 描かれたヘビ
 ヘビの様々な《かたち》には人々の複雑な思いが込められている。ひとに害をもたらすものとしての否定的なイメージだけでなく、仏教的な主題の中では肯定的なイメージでも捉えられている。

第3章 十二支の中のヘビ
 十二支には、年・月・日・時刻いった時間や方位を示す用語だった。古代中国において特定の動物と結び付けられた。ここでは、十二支の中で特にヘビに注目して作品が選ばれている。《よきこと菊の十二支 辰と巳》も展示品のひとつ。

第4章 芸能の中のヘビ
 ヘビが登場して重要な役割を演じる2つの古典芸能と、それに関連した物語絵巻や装束・面・道具などが紹介されている。《還城楽》のいかめしい面を付けてヘビと戯れる舞人や《道成寺》のたおやかな女性が恐ろしいヘビの姿へ一変するドラマティックな展開など。

エピローグ
 2011年に出光美術館で開催された《長谷川等伯と狩野派》展に、等伯が私淑したといわれる南宋時代の画僧牧谿(もっけい)の《平沙落雁図》等2点展示されていた。等伯は牧谿の精妙な自然描写に衝撃を受け、牧谿の筆法を完全に会得するまで、何度も繰り返し描き、こから光と大気の気配を学び、その成果が《松林図屏風》を描くのに生かされたといわれている。今回は、こんなことも思い出しながら《松林図屏風》を見た。
 昨年は《天翔ける龍》の展示がおこなわれ、同時に、東博が所蔵する龍を意匠とした作品を紹介する図集『天翔ける龍』が出版された。これらをつぶさに見ることで、東博の収蔵品の充実ぶりに感心したが、今年の《巳・蛇・ヘビ》でも同じように感じた。来年は午年だが、麒麟をもテーマにした同様の展示会が企画されるであろうか。

宗達と光琳の屏風の比較や、《風神雷神図》に関連する拡大写真を、こちらからご覧になれます
編集後記集