《ロマネスク様式の教会》をデジブックに
【メルマガIDN編集後記 第270号 130715】

 2004年に「ピレネーへ行きませんか?」と誘われて《ピレネー、花とロマネスク教会》と銘打ったツアーに参加し、ピレネーの山懐にあるロマネスク様式の教会を訪れた。その時撮影した写真をもとに、6つ目のデジブック(ムービースタイル編)『ロマネスク様式の教会』を制作した。


エスクナウのサン・ペール教会:入口


サンタ・マリア・デ・タウユの教会:クローバー型の後陣


サン・クレメン・デ・タウユ教会:全景


サン・クレメン・デ・タウユ教会
「栄光のキリスト」


エルミタ・デ・サン・キルク・デ・タウユの礼拝堂
 外観


モンタニアーナのサンタ・マリア教会 全景

 ピレネーは東西400km南北40~50kmでイベリア半島と大陸のくびれたところに位置している。私たちが訪れたところはイベリア半島の東部に位置するカタルーニャ地方。
 旅の前半は山峡の小さな国アンドラやアイグエス・トルテス国立公園などを訪れ、自然を満喫し、たくさんの《花》を見た。旅の後半はロマネスク様式の教会をめぐることになり、興味尽きない体験をさせてもらった。

旅の案内をしてくれた佐野虔之介さん

 虔之介さんは1946年生まれ、日本企業の広告担当をしていたが1990年に一家でソルソーナに移住した。どうしてここに住むようになったかという質問に対して、虔之介さんは、日本をはなれるにあたって、学生時代に惹きつけられた10世紀の壁画のある、カタルーニャの小さな伝統的な街、ソルソーナに決めた、と言う。虔之介さんを紹介するのにこのエピソードが最もぴったりしていると思う。

 以来、虔之介さんは当地において、ロマネスクの研究者、セミナー講師、現地の案内、旅行のコーディネーターなど幅広い活動を行っており、カタルーニャと日本の文化の交流の重要人物として、《影の文化大使》ともいわれていた。
 奥さんの和子さんは、カタルーニャの伝統音楽や宗教曲を得意としている、オルフェオ・ソルソーナ(合唱団)でアルトのパートを受け持っている。また、ハーブを使うカタルーニャ料理や「花の造形」など幅広い分野で活躍している。虔之介さんと和子さんには風人、徹心、詞音(シオン城より名づけたとのこと)という名の3人の男の子がある。
 2004年と2007年に現地で一家にお会いしており、来日された折にも数回お会いしている。最近では、現地で日本食レストランを経営していると聞いている。

デジブックにするために
 《ピレネー、花とロマネスク教会》の旅のあとに旅行記を書いて、私のホームページにアップした。ホームページのためには、フィルムから紙焼きした写真を使用した。今回デジブックを制作するために、すべての写真を現在使用している複合機で再度スキャンし、デジタルデータとした。

 ホームページを作成した時も今回も悩んだのは、土地や建物(教会)の名前の記載。たとえば《Vall de Bo》。旅行案内などでは「ボイ谷」と記されている。しかし、カタルーニャ地方では「ブイ谷」と発音しする。虔之介さんのメモにもそのように記してある。2004年に現地で説明を聞いた時の地名や建物名のメモはあるが、実際のスペルがどのようになっているかわからないものも多かった。

 幸い、旅の途中で訪れたところは、地図にマークがしてあった。ここで威力を発揮したのが《Google Earth》と《Google MAP》。検索欄に地図から拾った地名をその通りに打ち込むと、その場所が示され、そこにある教会の名前や教会の写真も表示してくれる。

 デジブックの中に《Google MAP》より必要とするところを切り取って、教会のある場所をマークして示した。ロマネスク様式の教会を求めて世界中を旅している人もいるので、《Google MAP》を見て土地勘を働かせてくれることを期待した。

教会の紹介
 今回作成したデジブックでは、おおよそ3つの地域で、9つのロマネスク様式の教会や礼拝堂を紹介している。
(1)アイグエス・トルテス国立公園を後にしてアラン渓谷のビエヤの街へ行く途中(C-28で西に向かいN-230にぶつかる少し手前)に見た3つの教会
(2)ブイ谷で初期に立てられた4つの教会と1つの礼拝堂を
(3)アラン渓谷からモンセラットへ向かう街道(N-230)沿いの町モンタニアーナにある教会

San Peir d’Escunhau Val d’Aran
エスクナウのサン・ペール教会
 アイグエス・トルテス国立公園を後にしてアラン渓谷のビエヤの街へ行く途中で見た教会のひとつ。
 この教会は12世紀にロマネスク様式で作られ、東側の部分は14世紀にゴシック様式で増築されている。北面にある入り口の形状、柱(カラム)、柱頭、アーチ、文様、たくさんのレリーフ、書かれている文字、十字架の形状、使われている石材、などなど。12世紀に作られた洗礼盤は花崗岩で作られており、彫刻が施されている。
 2004年8月に出版された芸術新潮では、「スペインの歓び」を特集しているが、この教会の扉口上部の半円壁(タンパン)に刻まれたキリスト像の写真を1ページの大きさで掲載している。

Santa Maria de Taull
サンタ・マリア・デ・タウユの教会

 この教会は1123年に建てられた。4層の鐘塔は南に位置しているが、聖堂の中に作られているところに特徴がある。
 聖堂は両側に側廊のある3身廊型であり、内部の側廊を区切る円形の柱の上にアーチがあり屋根の小屋組が乗っている。中央の後陣の内壁には有名な「栄光の聖母子」が描かれている。

San Climent de Taull
サン・クレメン・デ・タウユ教会
 南西部に位置している正方形の6層の鐘塔、聖堂、円錐形の屋根を持つ後陣のバランスが良い。中央の後陣の外観はボリューム感もたっぷりとしており、上部には3重のロンバル帯のアーチとぎざぎざ模様が見られる。
 また石積みのテクスチャーも荒々しいところと整然としたところのバランスも大変いい。聖堂は両側に側廊のある3身廊型であり、内部の側廊を区切る円形の柱は石積みの模様がレンガ状に見えて美しい。

 中央の後陣の内壁には有名な、左手に本を持っている「栄光のキリスト」が描かれている。「私は世界の光である」と言っている。この「栄光のキリスト」は16世紀から17世紀に描かれたもので現地のもんはレプリカであり、実物はバロセロナの美術館(MNAC)に移されている。

Ermita de Santa Quirc de Taull
エルミタ・デ・サン・キルク・デ・タウユの礼拝堂

 礼拝堂は矩形の聖堂と半円形の後陣で作られ、入り口は簡単なアーチが構成されている。石を積んで外壁を作り、外壁を利用して木材で小屋組みを構成し、その上に屋根を葺くという方法を明快に見ることが出来た。この礼拝堂はロマネスク様式の教会の建物の原型といえるだろう。

Santa Maria de Montanyana 12世紀~13世紀
モンタニアーナのサンタ・マリア教会

 モンタニアーナは、アラン渓谷からモンセラットへ向かう街道(N-230)沿いの町。サンタ・マリア教会は12世紀から13世紀にかけて建てられた。
 東西よりも南北に長いのに特徴があり、東面には後陣の半円形、北面には方形の出っ張りがある。南面の東側に鐘楼があり、東面に後陣の半円形の、北面には方形の出っ張り(聖具室)がある。
 この教会はメンテナンスがよくないのか、昨日ボイ谷で見たどの教会よりも荒れ果てて見える。ここは昔お城があったところで、周辺には物見の塔や城壁の遺構が残っているのを見ることが出来る。

エピローグ
 写真をスキャンし、それぞれの写真をレタッチし、デジブックへアップした。写真に対する説明文を考えたが、どれだけの量を書くか、縦位置の写真(今回多かった)の説明文を見やすくするための作業(改行の調整)に以外に手間取った。
 音楽については、デジブックで用意されている曲をたくさん聞いてみたが、結局クラシックのジャンルより『プレリュード』を使用した。
 すべてこれにかかり切っていたわけではないが、制作を始めてから1週間の時間を要した。古い写真がデジブックのおかげで甦ってくれたことで急激に熱くなった中での苦労が報われたような気がする。

 デジブックで《ロマネスク様式の教会》を制作したことを虔之介さんと《ほあぐらさん(メルマガIDNNO85号に紹介)》へ知らせた。
<虔之介さんのコメント>
 デジブックおもしろく拝見しました。奇妙なバッハも何やら思わしげでありました。日本がもう少し近いと、もっと多くの人が接する機会が増えるのでしょうが、そうはいかず、、、。少人数ながら今年の春は2人の方を北カタルーニャ方面へ案内しました。9月にはアウ谷からブルゴス、レオン方面までを予定しています。いつみてもロマネスクといわれる時代はおもしろいですから。
 生部さんも変わらずの人生追及、素晴らしいですね。またいつの日か、ピレネーの花でも撮りに来てください。それでは、デジブック到着のお知らせと御礼まで。
 ほあぐらさんのコメントは、《ほあぐらの美の世界紀行》の掲示板にあります。

デジブック『ロマネスク様式の教会』はこちらよりご覧ください
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