テレビ放送が始まったのは1953年のことであり、60年が経過した。放送のデジタル化が進み、地デジがスカイツリーより送信され、放送についての施策は一段落した感がある。情報インフラが整備され、ブロードバンド環境が整い、多様なインターネットのサービスを利用できる環境が整った。放送と通信の融合が図られる一方で、メディア間の葛藤が激しくなることが予想される。
前号では、新しく台頭してきたSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用が、テレビ視聴の拡大(視聴率の向上)にうまく循環しているのかという話題をとりあげた。今回は、大きなうねりの予兆が見え始めている《スマートテレビ》をキーワードに、これからのテレビの方向性について述べてみたい。
スマートテレビとはなにか? 総務省では2013年5月にまとめた『放送サービスの高度化に関する検討会』の報告に《次世代スマートテレビ》の定義が記されているが、同省が2012年6月に『スマートテレビの推進に向けた基本戦略』で定めた、《スマートテレビ》が必要とする3つの基本機能がその実態をよく表していると思う。 1つ目は「放送・通信の連携」:テレビとインターネットを接続させること(コネクテッドTV)によって、インターネットの動画サイトなどをテレビで視聴できるようになる 2つ目は「多様なアプリケーション・コンテンツの提供」:マルチ画面により番組を見ながらSNSで友人とテレビ上でやり取りしたり、視聴者の情報を元に番組を作ったりということが可能になる 3つ目は「端末間連携」:パソコン、スマートフォン、タブレット端末などでダウンロードした映像をテレビで見たり、テレビで録画した番組をパソコン、スマートフォン、タブレット端末などへ転送したり、スマートフォンでテレビを操作することなど 経産省では、家庭内外の生活情報(健康/高齢者の見守り/ショッピング/省エネ/節電/その他)とも連携して、情報を賢く利用し操作するインターフェースとしてテレビを活用することも、《スマートテレビ》の範疇として位置付けている。 さまざまな取り組み では新しいテレビのあり方として、どのような取り組みがなされているかを探ってみよう。 <NTT:ひかりTV・フレッツテレビ> NTTは光回線にテレビを接続し、《ひかりTV》を契約(有料)すれば、地デジやBSの放送、映画、ドラマなどのビデオサービス、NHKオンデマンドなどが視聴できる。上記の中で、地デジ、BS、CSなど限る《フレッツテレビ》のサービスも提供している。 <放送事業者> テレビ視聴と組み合わせてスマートフォンやタブレット端末を使うことを想定したアプリケーションにより、放送中の番組に関するソーシャルメディア(SNS)での盛り上がりや書き込みを一覧できる。 ハイブリッドキャスト(放送連動型スマートテレビの技術仕様)により、放送中の番組に関連する付加情報をスマートフォンやタブレット端末に提供し、放送と同時に表示することで、視聴者個人のニーズに合った視聴を可能にする技術開発も進められている。 <通信事業者> NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの通信事業3社は、そろって、スマートフォンやタブレットとテレビが連動したサービスを提供している。(モバイルファースト・テレビセカンド) ・宅外視聴:チューナーを自宅のテレビにつなぎスマホなどを予め認証させておけば、海外でも自宅で見ているテレビと同じコンテンツがリアルタイムで視聴できる ・スティック型VOD視聴:テレビ端子に専用のスティックを差し込み、モバイル端末向けにサービスされている映像や動画を、テレビの大型画面上で楽しむことができる。 <アップルとグーグル> アップルとグーグルも《スマートテレビ》へのいくつかの提案をしてきたが、最近になってサービスを開始したグーグルの《クロームキャスト》やアップルのApple TVによる《AirPlay》のサービスについては、日本の通信事業者のサービスと基本的には同じと言っていいであろう。 <テレビメーカー> 各メーカーのテレビの総合カタログ見たが、《スマートテレビ》への積極的な姿勢が顕著なのは、パナソニックの《新・ビエラ》と韓国のLG Electronicsの《新・スマートテレビ》である。 テレビに通信回線を接続し、大画面でテレビ映像とWebブラウザの映像を表示させることにより、テレビ放送を見ながら、インターネットの利用、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを使うことができる。 テレビをONしたときに《マイホーム画面》や《スマートホーム画面(LG)》として、放送を含むすべてのサービスを一覧表示する。新・ビエラでは、3種類の《マイホーム画面》を準備、表示のカスタマイズも可能である。カメラが顔を認証し、自分のホーム画面に移動してくれるという機能も有している。 スマートフォンで撮影した写真や動画を大画面のテレビに転送する《リンク機能》、リモコンに音声入力しWEBサイトなどの《音声検索》、ポインターを動かして操作し手元のホイールでスクロールする《マジックリモコン》、手の動きをカメラが認識し音量やチャンネルを変えることができる《モーション認識》、リビングで録画した番組を別室で楽しむことなど多彩な機能が準備されている。 スマートテレビの今後の方向 テレビメーカーは、テレビの初期画面を《ホーム画面》とし、テレビ放送とインターネットによるサービスの一覧を示す。自ら提供するコンテンツも含め多様なサービスへの入り口としてテレビを位置付け、高精細(4K/8K)の大画面も活用し、これからの《スマートテレビ》の主導権を握ろうとしているように見える。 アップルが60インチの「iTV」、「mini iTV」、テレビを操作する小型デバイス「iRing」のセットを発売するとうわさされている。近未来的なデザインにシンプルなインターフェイスで、テレビに接続されたデバイスの一括管理、音声でコントロールする機能、App Storeやゲーム、FaceTime機能など、スマートフォンやiPadで培った技術やサービスを、《スマートテレビ》で実現しようとしているように思えるのだが、どのような形で発売されるか興味のあるところである。 放送関係者にとっては、通信回線より得られたコンテンツの表示にテレビ画面を取られるのではないか、テレビコンテンツがフルスクリーンで視聴してもらえなくなるのではないか、という危機感がある。 放送サービスを中心におきながら、スマートフォンやタブレットを活用し、放送と通信を融合したサービス(セカンドスクリーンアプリ)を強化することを目指して《スマートテレビ》の時代に備えようとしている。 コンテンツの供給者にとっては、パソコン用、スマートフォン用、タブレット用、さらに事業者ごとに対応しなくてはならないのが現状である。これにテレビ用が加わることになるが、HTML5(次世代のウエブページ記述言語、多様なデバイスへの拡張が可能)の導入により効率化され簡略化されることになるばいいのだが。 エピローグ アメリカへ転勤になった息子さんが、「これを使って孫の元気な姿を見せてあげるよ」と言ってiPad miniを買い置いてアメリカへ行った。iPad miniの小さい画面でアメリカに住む孫の姿を見て喜んでいたが、《スマートテレビ》を利用することによって、リビングの大型画面に映る息子一家の様子を見ながら、お互いの元気を確かめることが出来るようになる。これは、《スマートテレビ》の良さを示すわかりやすい例のひとつである。 システムを構築し、サービスを提供する側にとっては、ビジネスモデルを考える時に困難な課題も残されていると思う。機能を進化させながら、ユーザーにとっての使い勝手を良くしてもらえば、《スマートテレビ》が普及し、ユーザー(視聴者と言う表現は適当でない)に楽しさや便利さを提供することになり、わが国の経済発展にも資することを期待したい。【生部圭助】 編集後記集 |