誇り高きラガード
【メルマガIDN編集後記 第273号 130901】

 「ラガードとは《出遅れた人》と言う意味だが、誇り高きラガードとは、あえて古い製品も誇りを持って愛用し続けることが大切だという」、これは、小野幸信さん(日経BP副編集長)がPCビギナーズで私の一端を紹介する時に使った。
 ラガードという言葉は、米国の社会学者エベレット・M・ロジャーズ(Everett M. Rogers)の《採用者分布曲線》の中で、革新的な技術や製品の採用者を5つのカテゴリに分けて、その比率を表現したモデルの中で使われている言葉である。


ロジャーズの採用者分布曲線
ジェフリー・ムーアのキャズムも表現した


Nikon F
2004年の『ピレネー 花とロマネスク教会』で活躍した


グランドセイコー(GS)
1965年に購入した時計の裏蓋を開けてもらった
ケースには汚れと錆が見られるがムーブメントは大変きれいだった


GOODMANS/AXIOM301
外観(6角形の形状が特徴)

バスレフの開口部には
ARUが取り付けられている

GOODMANS/AXIOM301
指定ボックス入り


パーカー51


修理中のトラブルにより下の写真の部分が全交換された

採用者分布曲線
 ロジャーズはアイデアが普及する過程の採用者を標準的な5つのカテゴリに分け、これら採用者の数を時間軸にわたってプロットすると、累積度数分布の曲線がSカーブとなることを発見した。各カテゴリは採用順にイノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティ・レイトマジョリティ・ラガードと呼ばれている。それぞれについて簡単に説明する。

(1)イノベーター:革新的採用者
 冒険的で、最初にイノベーションを採用する
(2)アーリーアダプター:初期採用者
 オピニオンリーダーとも言われ、自ら情報を集め、判断をおこなう
(3)アーリーマジョリティ:初期多数採用者
 比較的慎重で、アーリーアダプターに相談するなどして追随的な採用行動をおこなう
(4)レイトマジョリティ:後期多数採用者
 イノベーションが半ば普及していても懐疑的に見て、世の中の普及状況を見て 模倣的に採用する
(5)ラガード:採用遅滞者
 最も保守的・伝統的で、最後に採用する

 ジェフリー・ムーア(Geoffrey A. Moore)は1991年に、利用者の行動様式に変化を強いるハイテク製品においては、5つの採用者区分の間にクラック(断絶)があると提唱した。その中でも特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には「深く大きな溝」があるとし、これを《キャズム》と呼んだ。成功するには、この《キャズム》を乗り越える必要がある。

IDNの対応力を向上させるために
 IDNにおいて、新しい技術・製品・サービスへの対応力の向上を図るための取り組みを模索するときに、若い時に教わったロジャーズの明快でわかりやすいモデルを意識している。IDNのメンバーができるだけはやく《アーリーアドプター》になってもらいたいと願っている。

 たとえばiPadについて、外部の《イノベーター》にお願いして体験講座を実施して、iPadの良さや面白さを理解する機会を作った。いくつかの試みを実施し、IDNでは他の団体に先駆けてiPadを購入し、初心者向けの体験講座もできるようになり、現在も定期的に講座を続けている。

誇り高きラガード
 私は気に入って長期間使っている古いものを、壊れたら修理を依頼し、また、(だましだまし)使う習性がある。そのいくつかについては、メルマガIDNの編集後記でも紹介している。

<Nikon F(1963):第91号  カメラの世界遺産 ニコンFを使おう>
 Nikon Fは、東京オリンピックの一年前に購入した。最近は一眼レフデジカメを使うことが多いが、浅草寺にある川端龍子の龍の天井絵を撮影するときに、Nikon Fを使用した。所有しているニコン製のストロボがデジカメに同期してくれないので、Nikon Fに24ミリのレンズを装着して撮影した。この写真を私のホームページ《龍の謂れとかたち》に掲載している。

<グランドセイコー(1965):第166号 よみがえった手巻き機械式腕時計《グランドセイコー》>
 機械式グランドセイコー(GS)の初代は、スイスの高級腕時計に挑戦する国産最高級腕時計として1960年に誕生した。私が購入したものには、1965年4月10日に検査したSEIKO Chronometer 合格証がついている。この証書には、機械番号と証明書番号が記されている。
 動きが停止して20年以上も引き出しの中にしまったままのGSを半ば忘れていた。このGSを2009年2月に和光へ持って行っったら、「動くかもしれない」ということで、切れていたスプリングを交換し、オーバーホールをしてもらった。44年も前に作られた時計が動きだしたのを見て驚き感動した。
 GSが動いたことが不思議だったが、今年(2013年)6月に開催された《セイコー腕時計100周年フェア》で塩原研治氏のトークショーで、セイコーの時計作りに対する思い入れを聞く機会があり、動いたわけを納得した。

GOODMANS/AXIOM301(1966)龍のコンサート三昧(第5回)ロンドンの秋葉原へ行った話>
 このスピーカーは、銀座の日本楽器の1階奥のオーディオ装置の試聴室にあったもの。イギリス製のオリジナルを完全にコピーしたもので、箱の形状と材質は勿論、バスレフの開口部にはARU(アコースティック・レジスタンス・ユニット)が取り付けられ、箱の表面には桜のつき板が貼られている。箱は充分に乾燥しておりいい状態だったが、スピーカー本体は酷使されていたので新品に交換してもらった。
 オーディオがデジタルの時代に変わった時、あるオーディオマニアが家に聴きに来て「こんな古臭いスピーカーを!」と言われたが、それから何十年も我が家の一員として存在している。

<パーカー51(1965):第264号 甦ったパーカー51>
 パーカー51は、使い始めて48年の間に、インクの吸引装置が2回故障した。今年の故障に対して、パーカーでは部品がないとのことで修理を断られた。丸善の万年筆売り場の女性に紹介してもらった奥野ビルにある《ユーロボックス》で修理してもらった。修理に3か月ほど待ったが、甦って手元に戻ってきた。

エピローグ
 ロジャーズの採用者分布曲線を話題にしたときに、古いオーディオなどを愛用している私のことを《誇り高きラガード》と名付けてくれた方がいる。このことを小野幸信さんに話したら、そのまま私を紹介する言葉として使った。
 スピーカーについて。銀座の日本楽器の試聴室へ何回も通っているうちにお店の担当者とも親しくなり、私の好きなスピーカーも彼の知るところとなった。ある日彼が、「このスピーカー売りますよ、安く!」と言い、念願のGOODMANを譲り受けることが出来た。
 GOODMANを購入した時の私は《ラガード》そのものであるが、「それまでの自身の価値観や知識の蓄積から、じっくりと独自の状況分析を行い、自分で判断して遅ればせながら導入するのが《誇り高きラガード》である」、これは名づけ親の解説である。

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