ニュージーランド民話《タニファ》
【メルマガIDN編集後記 第276号 131015】

 出会った龍やドラゴンを《龍の謂れとかたち》というホームページで紹介している。絵本などに龍やドラゴンが登場するものも見受けられ、ファンタジーや民話についてもひとのジャンルとして位置づけている。
 今回紹介するのは、ニュージーランド民話をもとにした絵本《タニファ》。この絵本の作者は、ニュージーランド、マオリ族のクヲーター・ロビン・カフキア、訳が浜島代志子、MOE出版より1989年に出版されたものである。
 最初にこの絵本を見たときに、プロットや内容においては、魔法のドラゴン《パフ》によく似ており、同じような話があるものだと思った。両者のお話の狙いとするところは若干異なっているようにも感じられる。パフはドラゴンであると明快であるが、タニファもドラゴンの仲間として紹介する。


絵本『タニファ』


タニファとぼく
【表紙より】


ホキオイ鳥という誰も見みたことがない天にしかいない鳥
【裏表紙より】


魔法のドラゴン《パフ》
【英語版の絵本の表紙】

タニファの訳をした浜島代志子さん
 「この絵本をニュージーランドから日本へ連れてきて、翻訳したのは私です」と言っている浜島代志子さんは、
1940年インドネシアで生まれ、神戸大学文学部国文学科卒業し、神戸市立中学校国語科教諭を経る。
 絵本の見せ語り、人形劇の脚本、演出、出演、運営を行い、(有)天童・劇団天童を設立。ミュージカル、語り芝居などのプロ活動に転じる。《絵本育児学》という観点から絵本の実演もしており、「絵本は思考力、想像力、創造力、そして生きる力を養ってくれます」と言っている。

絵本のあらすじ
 まず、《タニファ》のあらすじを紹介しよう。
<ぼくの川にはタニファがいる>
 皆はただのまるたんぼうと言うが、タニファはお爺ちゃんが生まれるずっと前からぼくの川に棲んでいる。

<タニファは、昔の事を話してくれた>
 昔、マエイ族は、とても土地を大切にしていた。土地をめぐって部族どおしで戦いがあった。タニファは敵が攻めてくることや危険なことがわかっていたから教えてあげた。皆は私の言うことを聞いてくれた。

<海へ>
 タニファはぼくを背中に乗せ、林を越えて海へ飛び込んだ。海の底には、海の神様のタンガロアが居た。たこや蟹、魚や貝は、すべてタンガロアのこどもたち。
 タニファは、キラキラ光る緑の石を見つけてぼくにくれた。

<天へ>
 タニファはぼくをのせ、空にいる父神様ランギのところへ飛んで行った。一番高い雲をめがけて、のぼっていくと、雲の上に見たこともない鳥がいた。ホキオイ鳥という誰も見みたことがない天にしかいない鳥。
 タニファは、ふわふわの白い羽を見つけてぼくにくれた。

<地へ>
 タニファはぼくをのせ、土にいる母神様パパツアヌクのところへとんでいった。母神様が赤ちゃんにおっぱいをのませている。赤ちゃんは地震の神様ルアモコ。
 タニファは、やわらかい赤土を見つけてぼくにくれた。

<ぼくの宝物>
 ぼくは、宝物を友達に見せた。「なんだ、これ。タニファにもらったって?うそつけ!」と友達は笑った。お爺ちゃんに見せたら、お爺ちゃんは、じっと見てから、「おまえは、海の神様、空の神様、土の神様に会ったんだね。こりゃ、すごい!」といった。

 ぼくの川には タニファがいる。皆は、ただのまるたんぼうだって言うけれど、ぼくは知っている。あれは タニファだ!きみももう知ってるね。

タニファのお話が暗示すること
 ざっとこのようなお話。皆はまるたんぼうというタニファ、昔話をし、海へ行って海の神様のタンガロアに会ってみどりの石をもらう、天へ行って空の父神様ランギに会って白い羽をもらう、地へ行って母神様パパツアヌクに会いやわらかい赤土をもらう。

 昔話のところは、時の流れ暗示している。海でもらったタンガロアの目の色と同じみどりの石は真実を見ることを意味する。空の神ランギは父を表し、ここで会ったホキオイ鳥は天国にしかいない鳥、羽は勇気を意味する。地で会ったパパツアヌクは、マオリ語で母という意味、土は母の愛をもらうことを意味している。タニファは、目に見えない真実を語っている。

エピローグ
 魔法のドラゴン《パフ》は、霧が立ち込めるホナリー島の海のそばに住んでおり、ジャッキーとは大の仲良し。ジャッキーとパフはいつも楽しく遊んでいた。ある時、パフとジャッキーは帆を膨らませた船に乗って旅をする。高貴な王様と王子様は彼らに出会うとおじぎし、パフの前で海賊船は旗をおろした。

 時が過ぎて、ジャッキーの興味はやがてパフと遊ぶことから他に移り、パフのところへ現れなくなる。その日からパフは悲しみ、大声で吠えなくなり、悲しみに沈み、勇気も奮い起こせなくなり、自分の棲家に帰っていく。
 魔法のドラゴン《パフ》は、ジャッキーとパフの友情と、子供は成長し変わってゆくというお話である。

 タニファでは、過去のことを語り、海・天・地に行くという、時空を越えた世界へ誘ってくれる。そして、緑の目は真実を、羽は勇気を、土は母の愛を暗示している、などと奥が深い。

 訳者の浜島代志子さんは、「絵本は《心の食事》です。いい食材を選び、年齢にあった調理方法をしましょう」とも言っている。昔話や神話には、隠れ真実があり、これを読み解くことも大切だが、あまり理屈をこねないほうがいいのでは。タニファやパフの絵本をお子さんやお孫さんに買ってお話をしてあげると、きっと喜んでくれると思う。
 絵本『タニファ』は残念ながら絶版とのことであるが、ネットで探すと求めることが出来るようである。


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