NHK放送文化研究所の日本人の意識調査
【メルマガIDN編集後記 第286号 140315】

 NHK放送文化研究所(文研)は、昭和21年に設立された。文研は、本格的なデジタル時代を迎えても、「豊かな放送文化を創造する」という公共放送の役割は変わらない、この目的の実現に向けて必要な調査研究を行うことを、主な役割としている。
 文研からは毎年春に開催される《研究発表とシンポジウム》開催の案内がメールで来るので、研究発表やシンポジウムに参加しており、今年も《
2014年春の研究発表とシンポジウム》のプログラム中の《日本人の意識 40年の軌跡》を聞いた。


2014年春の研究発表とシンポジウム
【当日、会場のスクリーンを撮影した】


家庭と女性の職業の両立
1973年は22%  2013年は56%



生活満足感
「人間関係」以外の満足感が上昇している



40年で大きく変化(増加)した項目


意識変化の要因分析の結果
(影響の大きさを文字の大きさと太字で示している)

【ここに紹介したものは当日の配布資料より作成した】

日本人の意識調査
 日本人の意識調査は1973年の第1回調査から5年ごとに調査が行われ、数えて今回が9回目となる。調査は、毎回同じ質問、同じ方法で世論調査を重ねることによって、日本人の生活目標、家庭や男女のありかた、仕事や余暇、政治、宗教などにつて、日本人の基本的なものの考え方や価値観が長期的にどのように変化するのかを追跡することを目的としている。
 今回は、過去の調査結果に9回目の調査結果を加味し、40年間におよぶ日本人の意識の変化および不変をとらえ、調査の着目点について報告があった。 

2013年の調査

 
2013年に実施された《日本人の意識調査》の概要は下記の通りである。
・調査対象:全国の16歳以上の国民 
5,400
・調査方法:個人面接法
・調査実施日:2013年10月19、20日
・有効数:
3,070人(有効率 56.9%)

2013年の調査 結果のポイント
 2013年の調査では「震災の影響」について着目されたようであるが、「全体的な傾向に大きな変化はない」と結論付けている。

 ポイントの2番目としての「ナショナリズム」については、日本に対する自信が回復、天皇に対する《尊敬》が増加した、としている。
 日本人は、「他の国民に比べて、きわめてすぐれた素質を持っている」について、
1983年の71%をピークに下降し、1998年と2003年に51%を記録したがその後上昇し、2013年に68%まで回復した。

 3番目の「生活意識」については、生活満足度が上昇、家庭と女性の職業《両立》が初めて過半数に達した。

 家庭と女性の職業の両立については、1973年に20%だったものが、回を重ねるごとに増加し、2013年に初めて過半数を超えて56%となり、「結婚したら、家庭を守ることに専念したほうがよい」と考える人を上回った。

 「生活満足感」については、全体として高いレベルを保っているが、「人間関係」以外の満足感が上昇している。「生活全体(91%)」でもこの5年間での上昇がみられるが、「衣食住(79%)」、「地域の環境(87%)」での上昇が顕著である。

 「結婚観」の「する必要はない」について、93年からのデータ(51%)が示されているが、2013年には63%に上昇し、「結婚するのが当然」を大きく上回っている」ている。

40年で大きく変化(増加)した項目
 40年で大きく変化(増加)した項目としては、夫の家事の手伝い、家庭と女性の職業、女子の教育、地域の環境、婚前交渉について、理想の家庭、政治課題、衣食住の8つの項目を挙げている。(図を参照)
 「夫の家事の手伝い」については、98年の調査で80%を越し、13年の調査で89%に上昇した。

 「政治課題」については、「経済の発展」が40年で大きく増加(11%→37%)しているが、
1998年と03年には48%と高い値だったことがあり、前回の2008年には25%、2013年に37%と、経年として見ると増減の変化が著しい。
 一方「政治課題」についての「福祉の向上」を見てみると、
1973年の49%から経年としては増減があるが、2008年には28%に大幅に減少している。今回の報告では、2013年の調査結果の数字は紹介されなかった。

40年を通した変化の特徴
 40年を通した変化の特徴としては、下記の4点が報告された。
 ・伝統的な価値観から、「脱・伝統」の方向へ
 ・家族・男女関係の領域で大きな変化
 ・増加した項目、減少した項目とも、同じ方向に変化し続けているものが多い
 ・変わっていない意識もある(年上には敬語、仕事の相手は能力より人柄、など)

意識変化の要因
 2013年の調査結果に基づく結果の分析で特徴的なのは、意識変化の要因分析を行っていることであろう。意識変化の要因として3つの要因を取り上げ《コウホート分析》を試みている。

 コウホート分析とは、同一の調査項目を継続的に調査し、蓄積した時系列データから、その変化の要因を「時代による変化(時代効果)」、「加齢による変化(加齢効果)」、「世代の違いによる変化(世代効果)」の3つの要因に分解して、その結果を読み取っていく方法。(定義についてはビデオリサーチ社のHPより)

 40年で大きく変化(増加)した8つの質問項目に対して分析した結果を図でご覧いただきたい。時代と世代を合わせた効果が大きい項目、時代や世代が独立して影響を及ぼしている項目があり、年齢の影響は少ないという結果を示している。

エピローグ
 
2013年の調査結果のレポートは4月に発表されるとのことであるが、下記で1973年から前回の2008年の調査の全項目(55問)の単純集計結果を見ることが出来る。
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/yoron/social/pdf/090213.pdf

 第15問に「老後の生き方」という調査結果より、この35年間の変化を見てみよう。子供や孫といっしょに、なごやかに暮らす(38→28%)、自分の趣味を持ち、のんびりと余生を送る(20→29%)、できるだけ、自分の仕事を持ち続ける(20→12%)という調査結果が示されている。

 自分の仕事を持ち続けることについては、最近、老年学の先生たちがおっしゃっていることと異なっている。この5年間におけるシニアの就業意識は変わっていることが想像できるので、2013年の調査結果が発表されたら、注意深く見てみたい。

 
文研が1960年から5年ごとに実施している『国民生活時間調査』は、人びとの1日の生活を時間の面からとらえ、生活実態に沿った放送を行うために役立てるために行っている。この調査は、睡眠や仕事、テレビなど28に分類した行動と在宅状況について、2日間にわたって、15分単位で記入してもらうものである。文研では放送のために実施しているものであるが、国民の生活の実態を知る上で貴重な情報を提供してくれるものとして注目している。

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