東博の特別展『栄西と建仁寺』展を見に行った
【メルマガIDN編集後記 第291号 140601】

 東博で開催された、特別展『栄西と建仁寺』展(2014年3月25日-5月18日)は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけての禅僧で、日本に禅宗(臨済宗)を伝え、京都最古の禅寺・建仁寺を開創した栄西禅師(1141~1215)の800年遠忌にあわせ、栄西ならびに建仁寺にゆかりの宝物が一堂に会した展覧会。お目当てのひとつである、海北友松の《雲龍図》の阿形と吽形がそろって展示される後半を選んで見に行った。


建仁寺(けんにんじ) 正面
【2008年11月に撮影】


特別展『栄西と建仁寺』展
【チラシより】


海北友松筆 雲龍図(左4幅 吽形の部分)
【チラシより】


奥田頴川作の赤絵十二支四神鏡文皿
周辺に十二支、中心部に四神が配されている
【絵葉書より】


俵屋宗達筆の風神雷神図屏風  154.5×169.8cm
【チラシより】

建仁寺(けんにんじ)
 建仁寺は、京都市東山区にある臨済宗建仁寺派の大本山で、京都五山のうち第三位の格式を持つ京都最初の禅寺である。建仁2年(
1202)鎌倉幕府第2代将軍源 頼家が寺域を寄進し、宋国百丈山を模して栄西禅師を開山として建立された。山号を東山(とうざん)と称す。寺号の由来は、朝廷から年号を賜ったことによる。
 寛元・康元年間の火災等で境内は荒廃したが、正嘉元年(1258年)に東福寺を開山した円爾弁円(えんにべんえん)が入寺し、境内を復興し、禅も盛んとなった。

序章 禅院の茶
 栄西は中国から茶種を持ち帰り、茶の習慣伝え、現在の茶道の基礎となる喫茶法(点茶法)を築いたことで《茶祖》と呼ばれている。

 建仁寺では毎年4月20日の栄西の降誕会で、初期の喫茶儀礼を今に伝える四頭茶会(一度に36人を給仕する)が行われている。
 展示室の中には建仁寺の古い禅院の四頭茶会の空間が再現され、同時に、四頭茶会の様子が映像で紹介されていた。
 ここには、栄西禅師項相を中心に、伝秋月等観筆の2幅の《龍虎図》など、実際に使われているものが展示されていた。

第1章 栄西の足跡
 建仁寺では栄西を《ヨウサイ》と読んでおり、展示されている栄西著の『興禅護国論和解』の注釈書では、栄西の文字の横に《イヤウサイ》と読み仮名がふられている。栄西が著した「喫茶養生記」の最古写本なども展示されていた。

第2章 建仁寺ゆかりの僧たち
 建仁寺を代表する禅僧や遺品が紹介されていた。京都五山の中でも学芸の拠点となった経緯などを知ることが出来る。

第3章 近世の建仁寺
 戦禍で荒廃した建仁寺が再興する16世紀末以降の建仁寺ゆかりの人物や美術品がふんだんに展示されていた。
 見どころは狩野山楽とお目当ての海北友松。建仁寺は《友松寺》とも呼ばれるそうで、桃山時代の絵師《海北友松》の作品が多く残されている。
 第3章の展示室の全面に、海北友松が描いた本坊方丈の全50面(幅)の内、41幅が前後期に分けて展示された。私が見に行った後期には、26面を見ることが出来た。

<雲龍図>
 その中でも《雲龍図(
1599年)》は圧巻。会場の説明には、「玄関に最も近い下間(礼の間)の襖絵だったもの。黒雲の中から姿を現した阿吽(あうん)二匹の龍が動と静で対峙し客を迎える。《雲龍図》は、中国南宋の画僧・牧谿(もっけい)のスタイルをもとにしている。友松の龍は朝鮮でも有名だった」とあった。

 余談だが、等伯も牧谿の精妙な自然描写に衝撃を受け、彼の筆法を完全に会得するまで、何度も繰り返し描き、ここから光と大気の気配を学び、その成果が《松林図屏風》を描くのに生かされた。
 ほかにも、海北友松の《竹林七賢図》、《琴棋書画図》、《山水図》、《花鳥図》などの重要文化財が展示されていた。

第4章 建仁寺ゆかりの名宝
 ここでは、建仁寺や塔頭、また建仁寺派の寺院が所蔵する日本画や仏画、仏像、工芸品などが展示された。
 《人物花鳥押絵貼屏風》など海北友松の作品も4点、友松の《竹林七賢図》に刺激を受けて等伯が描いた《竹林七賢図屏風》、曽我蕭白の《山水図》、伊藤若冲の《雪梅雄鶏図》、長沢芦雪の《牧童吹笛図》等が展示されており、圧倒される。

 龍楽者にとっては、龍や獅子のこまやかな表現が見事な蝋型鋳造の三具足(香炉・花瓶・蜀台の三点セット)》、龍頭に龍があしらわれている《梵鐘》、《赤絵十二支四神鏡文皿》などが目を引いた。

 奥田頴川作の《赤絵十二支四神鏡文皿》は大統院の所蔵で、磁器で造った円形の皿を中国の青銅器の鏡に見立て、後漢時代に造られた倣古鏡の意匠文様を採用し絵付された陶皿。
 このお皿に描かれている十二支と四神をじっくりとみているときに、お皿の天地がさかさまであることに気が付いた。通常、十二支の子が上に、四神の玄武が上に位置するが、上下が逆になっていた。帰りに売店で求めた絵葉書は、天地が正常に配されている。

<風神雷神図屏風>
 本展の最大の目玉は、最後に展示されていた俵屋宗達の2曲1双の国宝《風神雷神図屏風
 154.5×169.8cm》である。この屏風は建仁寺蔵で、京都国立博物館に寄託されており、公開は5年ぶり(東京では6年ぶり)とのこと。

 2008年10月から11月にかけて、尾形光琳生誕350年記念《大琳派展~継承と変遷~》が東博の平成館で開催された。ここでは、俵屋宗達の国宝、尾形光琳の重要文化財、酒井抱一に加えて鈴木基一が襖に描いた《風神雷神図》の4つが一堂に会する面白い試みだった。

 今回は、東博の本館2階の7室で、尾形光琳筆の《風神雷神図屏風》が、本展の会期に合わせて公開されていた。また、同時期に酒井抱一筆が出光美術館で、鈴木其一筆が東京富士美術館で展示されていた。

エピローグ:8Kスーパーハイビジョンで見る《風神雷神図屏風》
 東博の平成館1階の大講堂で、8Kスーパーハイビジョンで撮影した《風神雷神図屏風》を大型のスクリーンで見る上映会があった。8K(ハイビジョンの16倍の密度)で撮影された超高精細映像と3次元音響により、NHKが高臨場感を実現しようとする試み。
 俵屋宗達の卓越した技巧をクローズアップし、大胆な筆使いや、細かい線を引き分ける繊細な技術をカメラがとらえており、現物では見ることのできない風神と雷神を見ることが出来て大変に面白かった。


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