東京都美術館で開催されている《メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神(2014年7月19日~9月23日)》を見に行った。ニューヨークのセントラルパークにあるメトロポリタン美術館には、先史から現代まで世界中から集めた200万点以上の所蔵品が収められている。同館が所蔵する約3万点のエジプト・コレクションは、世界で最も包括的なコレクションの一つに数えられており、今回はその中より《女性》をテーマに約200点が日本初公開されている。
エジプトの歴史 エジプトの歴史は途方もなく古く、約5100年前、上エジプトのナルメル王がエジプト全土を統一したことにさかのぼる。 大ピラミッドやスフィンクスが造営された古王国時代、死後の復活を祈るオシリス神信仰が盛んになった中王国時代、領土が最大化し、政治、経済、文化ともに繁栄した新王国時代を経て、前30年に滅亡するまでの約3000年間、大規模な建造物やミイラ、『死者の書』などに代表される独自の世界を築いた。 頂点に君臨する王はファラオと呼ばれ、中央集権体制により国を治めた。ファラオが建てた巨大な王墓や供養のための葬祭殿は、いまなおその栄華を伝えている。 エジプトの歴史は、世界史で教わったことであるが、ツタンカーメン、アレキサンダー大王、クレオパトラなどは、映画などにより親しみ深いものになっている。 展示の構成 本展では7つの章に分けて、実物、パネル、映像による展示がされている。 1章:ファラオになった女王ハトシェプスト 2章:愛と美の女神ハトホル 3章:信仰された女神たち 4章:王妃、王女たち 5章:王族の装身具 6章:王族の化粧道具 7章:来世への信仰 見どころ <女王ハトシェプスト> 展示の入口に石灰岩で造られた高さ50cmの頭像がおかれている。もとは3m以上の大きさのハトシェプスト女王の全身像のうちの頭部は、1923年から35年にかけてメトロポリタン美術館が発掘調査隊を派遣した際に発見し、復元されたもの。 女王ハトシェプストは、新王国時代第18王朝(紀元前1505年頃)のファラオで、古代エジプトの繁栄に大きく貢献した神秘の女王。 女王は内政の強化と近隣諸国との交易に力を入れて、文化的最盛期を築き、古代エジプト史において数々の功績を残した。 約20年間の在位中に築いた《ハトシェプスト女王葬祭殿》は、ルクソール(当時のテーベ)西岸のディール・アル=バハリにあるテラス式の葬祭殿であり、《王家の谷》の表に位置している。 女王の誕生から即位までを描いた壁画は、伝統的に男性が担った王という立場を誇示するため、多くの石像や壁画では頭巾や腰布をまとい、髭をつけた男性の姿で描かれている。 傀儡にされていたトトメス3世は彼女を嫌い、実権を握った後、壁画中の女王の姿はすべて削りとってしまった。 本展では、ここで発掘された彫像などハトシェプストにまつわる品々が展示されており、本展の最大の見どころとなっている。 また、《ハトシェプスト女王葬祭殿》とハトシェプストの功績などをビデオで紹介しており、この時代を理解するのに役立つ。 <古代の女神たちが一堂に> 多神教の古代エジプトには男性神とほぼ同じ数の女神がいた。自然の脅威を、神々が持つ特別な力になぞらえた。 牛の耳を持つハトホル女神は愛と美と豊穣を司り、カバの姿をしたタウェレト神は女性と子供の守り神、戦争と平和を司るセクメト女神など、彫像やステラ、護符などの作品から古代の女神たちが紹介されている。 <王家の女性たちが愛用したアクセサリーや化粧道具> 王家の女性たちは化粧道具を使い、装身具で自らを美しく飾った。これらは現世と来世における邪悪な力から身を守る呪術的な役割も果たした。 装身具は、金や半貴石、ガラスなどを素材に高度な技術で作られている。ファイアンス(焼き物の一種)製のビーズをつなげた襟飾り、今は襟飾りの一部(頭を飾ったかつら)だと言われている《ロゼット形装飾の集合体》、2つのガゼルの頭がついた王冠などが見どころである。 <来世への信仰> 本展の展示の最後は来世への信仰。古代エジプト人は死者が冥界の旅を無事終えることができるよう、ミイラを守るための副葬品を用意した。 女性神官(アメン・ラー神の歌い手)ヘネトタウィはミイラ化された後、内棺と外棺の2種類の木棺に納められたが、本展では内棺が展示されている。 トトメス3世の《3人の外国人の妻の墓》から発見されたこの棺は、紀元前1040年~前992年のものとされ、神に祈りをささげる死者の姿が隙間なく装飾が施され完成度が高い。 ミイラを守った副葬品のひとつがカノポス容器。ミイラ作りの際に死者から取り除いた肝臓、胃、肺、腸は4点セットとして準備された石製や陶製のカノポス容器に保存された。後年は臓器を詰めずに単なる副葬品として用いられることが多かったとされる。 王家の女性の頭をかたどった蓋つきのカノポス容器が展示されている。この女性はツタンカーメン王の母とされるキヤ王妃とされる。 これらは、死後も再生・復活を遂げて永遠に生き続け来世における永遠の幸せを願った王家の人々の死生観を表しているといえよう。 エピローグ エジプト展は、2006年に《大英博物館 ミイラと古代エジプト展》が科学技術館で開催され、ネスペルエンネブウのミイラが納められた棺、大英博物館が誇るエジプトコレクションから約130点が展示された。 2012年には、《大英博物館 古代エジプト展》が東京や福岡で開催され、全長37メートルの『死者の書』、《グリーンフィールド・パピルス》の全容を日本初公開、ミイラや棺、護符、装身具など約180点が展示された。 今回は《女性》をテーマにした展覧会であるが、エジプトの歴史は紀元前3000年という途方もない昔の事。展示を見ていて、とてもそんな時代のものとは信じられないというのが正直な感想である。 編集後記集 |