明治33年(1900)に年賀郵便特別取扱が始まった。年賀切手は、昭和11年(1936)の年賀用として昭和10年に初めて発行された。その後、一時中断されたが、昭和23年(昭和24年用)から毎年発行されている。
辰年の龍をあしらったお年玉記念切手は、昭和39年(1964)を最初に5回発売されている。今回は、お正月でもあり、辰年のお年玉記念切手を紹介し、切手に使われている日本各地の民芸品についても触れてみたい。
龍神招福は、土地の竜神伝説にちなみ、タツノオトシゴをモチーフにした甲府市産の木製民芸品。昭和29年(1954)に創案されたもので、1964年辰年の年賀切手の図案に採用された。 甲府盆地誕生ゆかりの地の伝説によれば、盆地がまだ湖底だった頃、そこには竜王が棲んでいた。神々が竜王に「貧しい人々のために湖を干拓して耕地を拓いてやりたい」と相談を持ちかけたところ、竜王は「諸人の幸福を招くことならば」と快く湖を明け渡して天に昇ったという。その昇天する姿をかたどって作られたのが「追難招福の竜」で別名《合点の龍王》ともいう。 昭和39年(1964) 岩井挽物人形の辰 福竜 島根県 岩井挽物人形の辰は、岩井温泉(鳥取県)の挽物細工の熟練の技を活かした木彫の十二支の龍。鳥取県伝統工芸士小椋昌雄によって作られたコロンとした丸い形が愛らしい郷土玩具。 岩井温泉で約200年前に木地師の小椋佐兵衛が挽物を製作したのが始まり、全体を挽物(ひきもの)細工で作り、泥絵具で色づけした飽きのこないデザインの愛らしい十二支の辰。 昭和51年(1976) たつぐるま 福島県 たつぐるまは、張子細工の産地である三春町で十二支にちなんで毎年新しくつくり出されるものの一つ。張子のたつに両輪が付けられていて、素朴さのなかにも華麗さがある郷土民芸品。 三春の高柴地域を中心として《デコ》または《デク》と呼ばれる張子の人形が作られていた。三春城主秋田家4代目の頼季候が江戸から人形師を招いて本格的な張子人形を作らせ、冬の農閑期の内職として農民に奨励した。 木型に和紙を張り、型から抜き取り「張り抜き」の手法で、人形によっては数個の木型を用いて張り抜きしてから、これらを組み合わせて一体の動的な姿態に作りあげる。 昭和51年のお年玉切手に選ばれている三春の辰車は、デコ屋敷の一つ《恵比須屋》の橋本広司さんの先代の作品がモデルとなっている。 昭和63年(1988) 倉敷はりこ「辰」 岡山県 岡山県指定の伝統的工芸品である《倉敷はりこ》は、生水多十郎氏によって明治2年(1869)に生まれた。以降、その技術と伝統は5代に渡って一子相伝で脈々と受け継がれ、今に至っている。 作品は張子の虎をはじめとして各種の面、干支をモチーフとしたものなど多種多様で、一貫して全て昔ながらの手作業で作られる手間のかかったもの。 平成12年(2000) からつ曳山人形「七宝丸」 佐賀県 平成12年用年賀50円郵便切手には、佐賀県唐津市で制作されている《からつ曳山人形》を描いている。からつ曳山人形は、唐津くんちという祭りに使われる曳山(山車)を象った郷土玩具で、《七宝丸》は14番曳山の名称。人形は昭和48年に野口喜光氏が発表、現在まで続いている。 平成12年(2000) 常石張り子の辰 広島県 平成12年用年賀80円郵便切手には、広島県沼隈郡沼隈町常石で制作されている《常石張り子》の辰が描かれている。常石張り子は 明治20年頃から制作が始まり、現在は3代目宮本峰園氏が受け継いでおり、人形の丸味の ある姿態が特徴となっている。 平成24年(2012) 相模土鈴「頭竜」 神奈川県 相模土鈴は、陶芸家相沢伊寛さんが制作している土鈴の総称。昭和30年(1955)から干支、動物、植物、乗り物、重要文化財などを題材として制作され、湘南の民芸品として親しまれている。原画作者は日本画家の大矢高弓。 本作品は、民俗学者南方熊楠や柳田国男の文献等をヒントに制作されている。頭や口に縁起物の玉が置かれているのが特徴で、運気の上昇を願って創作されている。 平成24年(2012) 土佐和紙雁皮張り子「龍」 高知県 本作品は、高知出身の女流画家で、郷土玩具も制作していた山本香泉さん(初代)が制作していた香泉人形の流れをくむ土人形。平成5年(1993)を最後に製作者が途絶えていた《香泉人形》を復活させるため、平成14年(2002)からこれに取り組んできた草流舎の田村多美さんが香泉人形の型を元に雁皮紙の張子として再現した作品の一つ。 原材料には土佐和紙の中でも最高品質の一つと言われる雁皮紙(がんぴし)が使用されている。張り子の中には、おめでたいといわれる無患子(むくろじ)の実が入っており、振るとカラカラと素朴な音がする。 香泉人形は、製作者の山本香泉さんからとった名前で、初代山本香泉は、戦後高知に戻り、土人形や張り子などいろいろな郷土玩具を創作した。 エピローグ 辰年の龍をあしらったお年玉記念切手は5回発売されているが、最初に発売された昭和39年の12年前の昭和27年の辰年には《おきなの面》があしらわれていた。今回切手を複写していて気がついたことだが、色使いが多彩で鮮やかになっている。切手の値段も、48年の間に、5円から80円へと16倍になっている。 最後に紹介するものは、平成への京版画の伝承と後継者を育成する版元《まつ九》が、お年玉記念切手と同じモチーフを用いた《干支はがき》に描かれた図柄である。 切手の大きい写真はこちらでご覧ください 編集後記集へ |