鶴谷八幡宮と木彫師・後藤利兵衛義光
【メルマガIDN編集後記 第316号 150615】

 2015年5月5日に後藤利兵衛義光の生誕200年祭が館山(千葉県)の鶴谷八幡宮で執り行われた。義光の作品をあしらった3台の山車と9基の神輿が勢ぞろいした。義光は、《波の伊八》として知られる武志伊八郎、武田石翁とともに安房の3名工と称されている。
 鶴谷八幡宮の拝殿の向拝の格天井にはめこまれた義光の彫刻《百態の龍》は有名で、2012年に見に行ったことがある。義光の生誕200年祭では、山車や神輿に配された龍や獅子の彫り物の力作をたくさん見ることが出来た。


鶴谷八幡宮の一の鳥居


拝殿  日頃は静かな佇まい


百態の龍の彫刻  鶴谷八幡宮拝殿の向拝の天井


3台の山車


砂埃のなか、神輿が山車にご挨拶


神輿の龍の彫刻(手力雄神社) 義光の作 写真の拡大

鶴谷八幡宮
 鶴谷八幡宮(千葉県館山市)は平安朝の初期、凡そ1000年程前の安房国の総社として国府の地(現在南房総市府中)に創建された。三芳村府中にある元八幡と称する小さな神社は、当社が府中にあった所の跡である。

 源氏は八幡大神を氏神として崇敬したので、総社の祭神の中の八幡大神が特に崇敬されるようになり、総社が改変されて八幡宮となり、鎮座地も現在の処に移されたと伝えられている。
 永正5年に里見家第三代領主義通が社殿を再建したのを始め、義豊、義尭、義弘、義頼、義康等が代々社殿を修理奉納している。
 徳川幕府も里見氏のあとをうけ、171石の社領の寄進や社殿奉納をしている。

 明治維新になり、八幡宮は明治6年に郷社に列せられ、後昭和15年に県社に昇格した。
 現在の本殿は享保5年に造営されたもので、館山市の文化財に指定されている。
 拝殿は大正12年の震災に倒潰し昭和7年に復興された。建物の構造及び大きさ等は凡そもとの通りであり、彫刻等は古いものをそのまま用いている。

木彫師・後藤利兵衛義光
 後藤利兵衛義光(
1815-1902)は、北朝夷村(現、南房総市千倉町)の大工の子として生まれた。幼名を若松という。23歳の時に江戸京橋で宮彫師・後藤三次郎恒俊に弟子入りして腕を磨いた。
 宮彫師となった義光は、最初は主に相模の国で活躍し、西叶神社(神奈川県横須賀市)の再建の際に手掛けた向拝と本殿の彫刻で名をあげた。西叶神社の完成後、《義光》を名乗る。

 42歳になった義光は鎌倉から生まれ故郷の北朝夷村にもどり、安房を中心に活躍するようになる。
 45歳で手掛けた円蔵院は義光の菩提寺。本堂欄干には義光の彫刻がある。中央には琴を弾く伝説の女性・玉巵(ぎょくし)と龍、左右には獅子が彫られており、市の文化財に指定されている。

 義光は、寺社の彫刻の他、山車や神輿、個人宅の欄間なども数多く手がけた。義光の特徴は、作品に必ず銘を入れることであり、そのために、義光の作品は後世に特定しやすくなっている。

百態の龍
 百態の龍は、鶴谷八幡宮(館山市)の拝殿の向拝の格子天井にはめこまれた彫刻で、中央の鏡天井の龍を中心に54態の様々な龍が組み込まれている。
 これも後藤利兵衛義光の作品。文久年間の八幡宮拝殿修復の際、多くの人々の寄付により奉納された。向拝の天井の竜の彫刻は館山市の文化財に指定されている。

9月の例大祭と義光の生誕200年祭
 館山市と近隣10社が出祭して9月に執り行われる例大祭は立錐の余地もないほどのにぎわいとなり、関東でも有数の祭りとされている。
2004年に《安房やわたんまち》として、千葉県無形民俗文化財として指定を受けている。

 義光の生誕200年祭の一年前の
2014年6月22日に、出身地の南房総市千倉町の円蔵院で発会式が開催された。発会式では、義光のひ孫である堀江 毅さんが、父から聞いた義光の素顔についての記念講演が行われたという。

 
2015年5月5日に、「義光の功績を顕彰し、彼が残した歴史的文化遺産をこれからの街づくりに生かし、観光資源として情報発信するために」生誕200年祭が鶴谷八幡宮で催された。
 当日は、鶴谷八幡宮の境内に、義光の彫刻が施されている山車が3台と神輿が8基展示された。そのうちの9基は近くの八幡海岸より笛・太鼓の囃子や掛け声とともに鶴谷八幡宮までパレードを行った。

 境内に並んで置かれた3台の山車の屋台では、勇ましい笛と太鼓の演奏が休みなくなされた。

エピローグ

 
2012年の8月に、地元のMさんから「始めましてと」いう件名で「千葉県館山市にある、鶴谷八幡宮の百態の龍は最高です」というメールを戴いた。私のホームページ《龍の謂れとかたち》をご覧になったことだと思う。
 「いつ行っても見せてもらえますか、写真を撮らせてもらえますか」という質問に対して、「初代後藤利兵衛義光の作品で、正確には55態の龍(彫刻)です。拝殿の賽銭箱の上の天井にあります。神社は、閉門など無いので、いつ行っても見れますよ」と教えてもらった。

 同年の11月に、房総の龍を尋ねた折に館山の鶴谷八幡宮を訪れた。その時撮った写真を使って、2つのページをアップしたことをMさんにお知らせしたら、「良いUPありがとうございます。地域住民として、嬉しく思います」というご返事を戴いた。

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