武雄温泉楼門の四つの干支
【メルマガIDN編集後記 第339号 160601】

 東京駅は、1914年(大正3年)の創建当時の姿を取り戻し、2012年10月1日にグランドオープンした。北と南にあるドームに飾られていた十二支のレリーフも当時の姿に復元された。
 東京駅のドームは八角形であり、柱の上部に十二支のレリーフが飾られているが、正中線に位置する、子(北)、卯(東)、午(南)、酉(西)が省かれている。
 東京駅丸の内駅舎の設計を担当したのは、当時の日本建築界の第一人者、日本の近代建築の礎を築いた辰野金吾(18541919)。辰野金吾は、東京駅丸の内駅舎のドームで省略した正中線に位置する四つの干支を、東京駅の翌年に完成した武雄温泉の楼門の天井に置いたと2013年に報道され、関心を呼んだ。
 東京駅のドームの八つの干支については、私のホームページ《龍のいわれとかたち》とデジブックでも紹介した。以前から武雄温泉の楼門の四つの干支を見たいと望んでいたが、佐賀へ行く機会があり、武雄温泉まで足を延ばした。


東京駅のドーム(南)の辰と巳のレリーフ


武雄温泉の楼門


武雄温泉の楼門の2階の折上格天井


折上格天井の四隅の通気口を兼ねた開口部に4つの干支がある


子(北)

卯(東)

午(南)


酉(西)

 
武雄温泉の楼門の立面図と創建時の姿
【武雄温泉の楼門 2階の展示より】

東京駅のドームの十二支のレリーフ
 東京駅の駅舎全体の重厚な雰囲気を醸し出す八角形のドームが創建時の姿に復元され、八角形のドームを支える八本の柱の上部に配されている十二支も往時の姿を見ることができるようになった。十二支はドームの空間の豊かさを演出している大きな要素となっている。
 飾られている干支は、十二支が方角を示すルールにのっとり、ドームの向きに合わせて、丑・寅(北東)、辰・巳(南東)、未・申(南西)、戌・亥(北西)が配されている。八本の柱に対して十二支は数が合わない。正中線に位置する、子(北)、卯(東)、午(南)、酉(西)が省かれている。

 
武雄温泉
 武雄市は、佐賀市と佐世保市の中間に位置する市。町の中心には開湯以来1300年経つ武雄温泉がある。透明で柔らかな湯ざわりが特徴の武雄温泉は、1300年も前に書かれた『肥前風土記』の中に「郡の西の方に温泉の出る巌(いわや)あり、・・・」と記された、歴史ある温泉であり、古くは神功皇后も入浴されたと伝えられている。
 江戸時代には、長崎街道の宿場町として栄え、歴史上名高い宮本武蔵やシーボルト、伊達政宗や伊能忠敬などが入浴した記録も残されている。


楼門の四つの干支
 武雄温泉の入口には、唐津市出身の建築家で日本近代建築の父と呼ばれる辰野金吾が設計した《武雄温泉楼門》がある。楼門は国の重要文化財に指定されている。

 武雄温泉では、当初3つの楼門が計画されていたが、実際に作られたのは、《東南楼門》のみだった。
 1914年(大正3)に着工し、翌年に竣工した朱塗りの楼門は、竜宮を連想させる鮮やかな色彩と形で、天平式楼門と呼ばれ、釘一本も使用していない建築物。楼門は、木造2階建ての門に北翼屋(土産屋)と南翼屋(食堂)を増築した建物で、築後100年以上の時を経た。

  桁行:6.8m  梁間:4.9m  高さ:12.5m
  屋根:入母屋造り・本瓦葺  下層:白色漆喰塗り大壁

 楼門を所有するのは、武雄温泉を営業する武雄温泉(株)であり、数十年ごとに修理を繰り返して、現在まで守ってきた。
 楼門が、2005年に国の重要文化財に指定されたことにより、保存修理工事に行政の補助金を活用できることになった。保存修理工事は、これまで実施してきた塗装の塗り直しなど小手先の改修工事とは異なり、耐震補強工事を含む本格的な内容となった。

 1914年に完成した東京駅と翌年に完成した楼門が図らずも同時期に保存修復されることとなった。2012年から行われた改修工事のときに、楼門の2階の天井四隅の通気口を兼ねた開口部に子(北)、卯(東)、午(南)、酉(西)が、それぞれ約30cm四方の杉板に彫ってはめ込まれているのが見つかった。

 東京駅の八角形のドームに、8つの干支が飾られていることは知られていたが、このドームにない正中線(東西南北)に位置する4つの干支の存在が謎とされてきた。

 楼門で発見された4つの干支と、ほぼ同時期に辰野金吾が手掛けた東京駅のド-ム天井に飾られた8つの干支と合わせ、十二支になっていることがニュースとなり注目を集めた。
 東京と故郷の佐賀、辰野金吾にとって二つの拠点の重要文化財で、十二支は完結することになるが、「何故武雄温泉楼門に?」という問いに対しては明確な答えはない。

 
2014年2月1日に、東京駅で、楼門の子と午が東京駅の8つの干支と合わせて一緒に展示されたそうである。

エピローグ
 
2016年5月に楼門を訪れた。内部を見学できる時間は朝の9時から10時までと制限されている。階段下で履物を脱いで、ガイドさんの案内で急な階段を上がる。2階の中央には、武雄温泉と楼門の説明の展示がある。ガイドさんの説明を聞き、ゆっくりと格子天井の四隅にある干支を見ることができた。

<十二支の配置>
 十二支の配置の仕方には、おおよその原則がある。たとえば、靖国神社や松濤公園(東京都渋谷)にある石燈籠は6角形であり、子丑・寅卯・辰巳・午未・申酉・戌亥と2個を対にして燈籠の中台の各面に配置されている。

 千葉神社の福徳殿は8角形であり、正中線に位置するものは同じ干支が二つ、そのほかは二つの異なった干支が対に、子子・丑寅・卯卯・辰巳・午午・未申・酉酉・戌亥、と配されている。

 辰野金吾は、8角形の東京駅のドームには正中線(北・東・南・西)に位置する、子・卯・午・酉を省略し、東京駅の翌年に完成した武雄温泉の楼門にこの四つの干支を置いた。
 辰野金吾が遊び心で意図的に行ったかはわからないが、龍楽者としては、十二支も興味の対象になっており、実際に見たかったものの一つ。東京駅のドームの八つの干支を見て以来の念願がかなった。【生部圭助】


ホームページ:東京駅ドームの十二支のレリーフ
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