バーチャルリアリティは第2世代を迎える
【メルマガIDN編集後記 第358号 170315】

 2017年3月3日に、一般財団法人テレコム先端技術センター(SCAT)主催で開催されたセミナー《AR/VRの現状と今後》を聞きに行った。講師は、東京大学大学院の廣瀬通孝(教授)と谷川智洋(特任准教授)だった。
 廣瀬先生のプレゼンの最初のスライドに、「バーチャルリアリティ Virtual Reality」とは、コンピューターの作り出した空間の中に入り込み、そこでいろいろな体験をしようという技術のこと。その名前が社会に登場したのは1998年のことであるが、ルーツは宇宙航空技術である、と記されている。
 VRの狙いやイメージについては、ほぼ20年前に、MVL(マルチメディア バーチャル ラボ)の北米調査で見聞きした内容から一見進展が見られないようだが、廣瀬先生は、演題≪VR2.0の世界≫に示すとおり、今まさにVRが脚光を浴びようとしている時が来たことを強調された。
 谷川先生は、2014年7月に、EPSONの方が四谷ひろばのパソコン教室でスマートグラス《MOVERIO》の紹介とデモを行った時にお見えになった。その時、今回も紹介された≪バーチャル タイム マシン≫の成果を《MOVERIO》で見せてもらった。もう3年も前のことである。


MVLの北米調査:金出教授に、実験中の3Dルームを案内してもらった


MVLの北米調査:スターウォーズの剣のバトルの仮想体験
写真の人は開発の当事者のRandy Pauschさん



VR技術は0世代から第一世代を経て第二世代に突入しつつある
【廣瀬教授のスライド】



Mixed Rearlity 複合現実感
【廣瀬教授のスライド】


臨場感通信:MVL(マルチメディア バーチャル ラボ)の実験
【谷川特任准教授のスライド】


VRの事例:思い出のぞき窓
【谷川特任准教授のスライド】


MVL(マルチメディア バーチャル ラボ) 1997-2002
 今回の廣瀬先生の講演の中で、「臨場感通信」の例として、MVL(マルチメディア バーチャル ラボ)が紹介された。私にとってのVRで最も印象に残っているのは、MVLというプロジェクトにかかわったことやMVLで計画された北米調査に参加したことである。

 MVLは、1997年から2002年にかけて実施されたプロジェクトで、当時、産業界、大学などを会員とする団体としてMVL開発推進協議会が設立され、私が勤めていた会社が幹事会社のひとつになっており、私が会社の窓口を担っていた。
 岐阜のVRテクノジャパンに置かれた《COSMOS》と東京大学におかれた《CABIN》を、ギガビットネットワーク JGN(155Mbps)で繋いだ実験を見に行ったことなど印象深い。

 MVL開発推進協議会が調査団を編成し1998年12月に、VRやネットワークなど最先端の研究開発を行っている北米地域の研究機関における技術開発動向や研究推進体制についての訪問調査を行った。訪問先は、ワシントン大学Hit Lab、富士ゼロックス米国研究所(FXPAL)、Alias Wavefront社、イリノイ大学シカゴ校EVL、カーネギー・メロン大学、メリーランド大学、トロント大学など。

廣瀬通孝(教授)の講演:VR2.0の世界
 廣瀬先生は、「最初のVRから25年が経過し、VR技術は0世代から第一世代を経て第二世代に突入しつつある」と捉え、その原因として、「技術の世代交代が進み、驚異的な高性能化低廉化が進んでいるほか、当時存在していなかった周辺技術(WEB、IoT・・・・)も充実しつつある」ことを挙げている。VR技術としては高い臨場感の映像をインタラクティブに体験する技術基盤はそろいつつあることを強調された。

 我々は、日常、いわゆる五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を駆使して生活している。にもかかわらず、これまでの情報通信技術のチャンネルは視覚や聴覚に限定されてきた。これからは、五感情報通信技術が重要であること、これからのVR技術でできることとして、空間を超える、時間を超える、感覚に作用する情動、仮想化することが示された。

 廣瀬先生は最後にまとめとして下記の3点を強調された。
1.現在のVR技術は第1世代に比べて、いくつかの質的な違いがある。これをVR2.0と呼ぶ。その違いを認識することが重要。
2.VR2.0は単体技術ではなく、その周辺の技術まで含む、生態系が重要。その生態系が整ってきたのが「VR元年」。
3.VRは、現実のコピーではなく、現実を超えることを目的と押すべき。「VRでなければできないことは何か」が重要である。

谷川智洋(特任准教授)の講演:VRと文化資源と日常
 谷川先生からは、最初に「機械・計算機と人間の協調」として、計算機や機械と人間を結びつけるための仕組みをヒューマンインターフェースと呼び、直感的に意識させることがないように設計することで、機械・計算機と人間の高度な融合が可能となる、ことが示された。

 VRとは「人間の行動をセンシングし、その行動がもたらすであろう結果をシミュレーションして、人間に感覚情報として提示することで、あたかも実世界と同等の体験を実現する」と定義し、VR技術の3要素として、VR世界への没入、約束事のないインタラクション、視覚以外の感覚によるインタフェースが紹介された。
 VRを取り巻く状況として、
・タブレット端末やHMDな等の普及にともなって、インタラクティブコンテンツを提供する基盤の充実
・デバイス、サービスにおいて、サイバーと現実が高度に結びつつあることが示された。

 VRの事例として、人間の感覚・理解能力の拡張、デジタルミュージアムへの展開、人間の判断能力の拡張などについてたくさんの実施例や研究事例が紹介された。
 今後の展望としては、計算機は密度・時間空間での体験を記憶し、VRを用いてその記録を高い臨場感で追体験できること、バーチャル空間のみならず実空間においても感覚を拡張された存在に返信できることなどを提示された。

エピローグ
 当時の郵政省の肝いりで整備した研究開発用の「ギガビットネットワーク JGN」のスピードは155Mbpsだった。現在私が使っているものとほぼ同じであり、ネットワーク環境にもこの20年で隔世の感がある。 
 MVL(マルチメディア バーチャル ラボ)に関する北米調査では、見聞きするもののすべてが新鮮だった。ワシントン大学で開発中の、人間の網膜をレーザーでスキャンする、コンピューターからのRGBの光を合成し網膜に掃射する「網膜ディスプレイ装置」には驚かされた。

 カーネギー・メロン大学に在籍されていた金出武雄教授の研究室での「Virtualized Reality NBAのゲームをコートで見よう」。20(W)X20(L)X9(H)フィートの空間に取り付けた49台のカメラで実空間の映像を撮影し、3次元データに構造化し、目的に合った映像を再現する実験を見せてもらった。NBAのゲームをコートの好きなところで見ようとするものである。この技術については、私が居た会社が関わっていた大分ドームへの適用を検討したが、実現には至らなかった。
 カーネギー・メロン大学では、スターウォーズの剣のバトルの仮想体験をさせてもらったことも貴重な体験だった。【生部 圭助】

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