法隆寺金堂の釈迦三尊と壁画の復元
【メルマガIDN編集後記 第372号 171015】


 東京藝術大学大学美術館で開催中(2017年9月23日-10月26日)の「素心伝心~シルクロード特別企画展 クローン文化財 失われた刻の再生~」を見に行った。東京藝術大学では、劣化が進行しつつある、或いは永遠に失われてしまった文化財を、伝統的な造形技術と最先端のデジタル画像技術によりクローンとして現代に蘇らせ、未来に継承することに注力している。本展では、現在危機に面しているシルクロードの文化財のいくつかをクローンとして再現することを試みている成果が展示されている。
 一連の展示の中より、クローンとして復元された、法隆寺金堂の釈迦三尊像(国宝)と金堂外陣(げじん)の土壁に描かれていた12面の壁画を紹介する。


法隆寺金堂 外観


法隆寺金堂内部の実物大展示


復元された釈迦三尊像(国宝)


第6号壁 阿弥陀浄土図



第8号壁 文殊菩薩坐像

第11号壁 普賢菩薩坐像
北面にある第8号壁と第11号壁は対をなしている


第2号壁 菩薩半跏像(部分) 左手に長い蓮華の茎を持つ 

法隆寺
 法隆寺は、聖徳宗の総本山であり、別名は斑鳩寺ともいう聖徳太子ゆかりの寺院である。法隆寺の創建は金堂薬師如来像光背銘、『上宮聖徳法王帝説』から607年(推古15年)とされ、金堂、五重塔を中心とする西院伽藍と、夢殿を中心とした東院伽藍に分けられる。西院伽藍は現存する世界最古の木造建築物群である。
 法隆寺の建築物群は法起寺と共に、1993年に「法隆寺地域の仏教建造物」としてユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。

法隆寺金堂
 金堂は、法隆寺の西院伽藍の中心となる施設であり、607年(推古15年)に創建された。創建当時の建物は、670年(天智9年)に火災で焼失し、再建されている。金堂は、世界に現存する木造建築の中でも最古にあたる、由緒ある仏堂である。
 全体の形はほぼ正方形に近く、二層の入母屋造りの上層の屋根は2方向に、下層の屋根は4方向へ勾配している。上層と下層をつなぐ支柱に巻き付けられた龍の彫り物も、荘厳な雰囲気をかもしだしている。

釈迦三尊像(国宝)の復元
 法隆寺金堂の「中の間」にあるご本尊「釈迦三尊像(国宝)」は、623年(推古31年)造立とあり、止利仏師により制作された像で、日本仏教彫刻史の初頭を飾る名作である。物故した聖徳太子の冥福を祈って、太子と等身大で作られた仏像である。

 この像は、図式的な衣文の処理、杏仁形(アーモンド形)の眼、アルカイックスマイル(古式の微笑)、太い耳朶(耳たぶ)、首に三道(3つのくびれ)を刻まない点など、後世の日本の仏像と異なった様式を示し、大陸風が顕著である。

 今回の展覧会では、釈迦三尊像を3D計測や3Dプリンターの技術を用いて金銅仏として再現し、金堂の天井に吊るされた天蓋や欠失した螺髪や白毫、大光背の飛天を復元して展示されている。

法隆寺金堂の壁画
 「法隆寺金堂の壁画」といえば、金堂外陣(げじん)の土壁に描かれていた12面の壁画を指すことが多いが、これらの他に、外陣小壁と内陣小壁にも壁画があった。

 1949年(昭和24年)1月26日の早朝、金堂に火災が発生した。出火当時、金堂は半解体されており、天井より上の上層部分と裳階部分の部材は解体済みだったため難をまぬがれた。

 オリジナルの外陣の壁画は黒こげになったとはいえ現存しており、焼損した壁画はアクリル樹脂と尿素樹脂を注入し硬化され、1954年(昭和29年)10月から翌年3月にかけて再組み立てされ、建設された収蔵庫に収められている。

 外陣小壁には外陣壁画のすぐ上の頭貫(かしらぬき)と天井の間の小壁面に「山中羅漢図の壁画」18面があったが、焼失してしまった。
 内陣小壁の「飛天の壁画」20面は、火災当時取り外されて別の場所に保管されていたため難をまぬがれた。

<外陣の壁画>
 法隆寺金堂初層は外陣(げじん)が正面5間、側面4間、内陣が正面3間、側面2間である。
 外陣の正面、背面、両側面ののうち6面の柱間には扉が設けられ、残りの12面を土壁とし、ここに壁画が描かれていた。確実な歴史的史料がないことから作者は不明とされている
 壁画には1号から12号までの番号が振られている。東側の扉を入って左側の壁が1号壁で その隣(南側)が2号壁、以下、時計回りに番号が振られ、東側扉の北側に位置する壁が12号壁である。
 壁面の大きさは横幅255-260cm前後の大壁(たいへき)と横幅155cm前後の小壁(しょうへき)の2種類がある(壁面の高さはいずれも約310cm)。
 東面の1号壁、西面の6号壁、北面中央扉の左右に位置する9号壁と10号壁の計4面が大壁、外陣の四隅に位置する残り8面が小壁である。

<外陣壁画の主題>
 外陣の壁画12面のうち、4面の大壁には三尊仏を中心にした浄土図が表され、残り8面の小壁には各1体ずつの菩薩像が表されている。(名称はwikipediaによる)
  第 1号壁 釈迦浄土図
  第 2号壁 菩薩半跏像
  第 3号壁 観音菩薩立像
  第 4号壁 勢至菩薩立像
  第 5号壁 菩薩半跏像
  第 6号壁 阿弥陀浄土図
  第 7号壁 観音菩薩立像
  第 8号壁 文殊菩薩坐像
  第 9号壁 弥勒浄土図(異説もあり)
  第10号壁 薬師浄土図(異説もあり)
  第11号壁 普賢菩薩坐像
  第12号壁 十一面観音立像

 外陣の小壁、2号壁と5号壁(対面)、3号壁と4号壁(並び)、7号壁と12号壁(対面)、8号壁と11号壁(並び)は対をなしている。

金堂壁画の全面を原寸大で復元
 1949年に焼損した世界文化遺産である法隆寺旧金堂壁画は、東京藝術大学により、全12面の壁画が原寸大で、焼損前の姿に復元された。
 古代から連綿と受け継がれてきた日本の伝統文化に、東京藝術大学が培ってきた壁画複製特許技術(伝統的な造形技術と最先端のデジタル画像技術)によって画像を統合、焼損前に撮影されたガラス乾板やコロタイプ印刷、画家による模写などの資料をもとに、復元を行った。
 本展示は、文部科学省および科学技術振興機構「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM, COI-T)」の研究課題の成果である。

エピローグ
 東京藝術大学では、最先端技術のスーパーハイビジョン(8K)プロジェクターを用いて、法隆寺金堂をテーマとした超高精細映像表現作品を展示している。
 金堂外陣(げじん)の土壁に描かれていた12面の壁画については、堂内を再現した暗い空間での写真撮影は十分に成功しているとは言えないが、デジブック(音楽付きのスライドショー)を作成したので、興味のある方はご覧いただきたい。【生部 圭助】

法隆寺金堂の壁画と釈迦三尊像のデジブック
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