編集後記集
【メルマガIDN 第166号 090301】


よみがえった43年前の手巻き機械式腕時計《グランドセイコー》
 43年前、就職した年に購入し、スプリングが切れて止まってしまい、20年以上も引き出しの中にしまったままで半ば忘れていた《グランドセイコウ》が動き出したのを見て驚き感動した。

 手巻きの機械式時計《グランドセイコー》を復活させてみようと思ったきっかけは、あいまいである。あるお店で、備えられている雑誌の中の時計の特集ページを見ていたときに、店の主人が、「時計がすきなの?」と問いかけてきたのがことの始まり。主人との会話の中で、《グランドセイコー》のことを話したら、「生部さん、その時計は是非動かしてみてほしい」と熱心に勧められた。
 家に戻って引き出しの中を調べたら、箱の中に、時計本体、使用説明書、SEIKO Chronometer 合格証が出てきた。この証書には、機械番号と証明書番号が記されており、この時計の検査日は、1965年4月10日になっている。領収書によると購入日は、1965年8月21日であることがわかった。

グランドセイコー 43年前の時計の裏蓋を開けてみる
ケースには汚れと錆が見られる
ムーブメントは大変きれいである



グランドセイコー 時計の裏蓋
数字列の最初の数字が5になっており
1965年に作られたものであることの証明
【この写真は2013年06月21日に追加した】


この時計のChronometer合格証
写真をクリックすると拡大します
【この写真は2013年06月19日に追加した】


よみがえった1965年に購入した2代目グランドセイコー
手巻き・日付機構付のモデル 35石

オーバーホールを終え2009年2月20日に使い始めた


銀座の和光へ行く
 銀座の和光へ行った。以前は、銀座通りから建物に入って右側の奥に時計の修理のカウンターがあったが、現在は銀座通りの1本裏の通りを1丁目のほうに一ブロック歩いた交差点の手前に移動している。
 このカウンターに《グランドセイコー》を持っていって、「勝手なお願いだけど、裏蓋を開けて中を見せてほしい」とお願いしたら、簡単に「いいですよ」との返事。奥に入ってすぐに、トレイの上にのった《グランドセイコー》が現れた。
 シール材のゴムは切れていたが、内部の機械に錆などは見られないがきれいな状態だった。茶色に錆びたムーブメントを想像していたので、信じられないというのが正直な気持ちだった。

 裏蓋に刻まれている数字列の最初の数字が5になっており、この時計は、確かに1965年に作られたものであることの証明となった。(たとえば1975年に作られたものも、5と表示されているとのこと)

機械式グランドセイコーの歴史
 《グランドセイコー》の歴史については、セイコーウオッチ株式会社のホームページに詳細に紹介されている。その中より、機械式腕時計にかかわる部分をかいつまんで紹介する。

 1960年に、初代グランドセイコーがスイスの高級腕時計に挑戦する国産最高級腕時計として誕生した。その精度は当時のスイスのクロノメーター優秀規格と同等の高精度なもの。1代目は、当時の価格で2万5千円(一般的なサラリーマンの初任給の2倍程度)という高額なものだった。5振動、手巻き、25石 諏訪精工舎製(現セイコーエプソン)

 2代目グランドセイコーが発売されたのは1963年のこと。初代モデルのムーブメント(駆動体)を基に日付機構を搭載。5振動、手巻き、35石 諏訪精工舎製

 1966年にはグランドセイコーとして初の自動巻きモデルが発売されている。5.5振動、自動巻き、39石 諏訪精工舎製

 1970年代には、セイコーが世界で初めて発売したクオーツ腕時計の急速な普及によって機械式《グランドセイコー》は一旦市場から姿を消した。

 1998年に24年振りに、新開発された機械式キャリバーを搭載した《グランドセイコー》が復活。かつての精度規格にこだわりをもち、1960年代のそれをも上回る静的精度+5秒~-3秒という新GS規格の下に登場した。8振動、26石 セイコーインスツルメンツ製

 私の《グランドセイコー》は、2代目のモデルであり、1963年に新発売された製品であることがわかる。1965年にわたしが購入した2代目も、2万5千円であり、私の初任給と同じ価格だった。

オーバーホールを依頼する
 私の《グランドセイコー》の内部をを見て、竜頭を触った担当のWさんは、「スプリング(ぜんまい)は切れていますが、この時計はきれいなので、オーバーホールをして動かすことはできますよ。部品の交換はあるかも知れませんが。」と、いとも簡単におっしゃる。お値段は、オーバーホールに3万円、とりあえずスプリングの交換に5千円、動かない場合には、お代はいただきませんとのこと。

 その日には、破損しているシール材をはずし、回転式の裏蓋をゆるくしめてもらって自宅へ持ち帰った。裏蓋を自分で開けて、時計の内部の写真を撮った。(写真参照)
 写真撮影をしながら、驚きの目でじっくりと時計の内部を観察し、この《グランドセイコウ》をもう一度動かしてみようという気になった。このための費用については、ある業界団体の機関紙に投稿した原稿料を充当することにした。

43年前の手巻き機械式腕時計《グランドセイコウ》がよみがえった
 オーバーホールを依頼して2週間後に《グランドセイコー》を受け取りに行った。依頼したときと同じWさんがカウンターにいたのでいくつかの質問をした。
 この《グランドセイコー》の部品点数は160ほどとのこと。《グランドセイコー》のメカニカル時計の組み立てには、1ミクロン単位というクオーツ時計以上に厳しい精度が要求されるため、卓越した技能を持つ職人たちが、自らの手で作業を行っている。
 分解、洗浄し、修理し、再び組み立てるには、つくる時と同じ作業精度が求められる。そのためにグランドセイコーサービスステーションでは、熟練の技を身につけた専門の修理技術者のみがメンテナンスを担当。最終チェックまでひとりの技術者が責任を持ち、きめの細かいメンテナンスサービスを行っている。

 今回よみがえった《グランドセイコー》の一日あたりの誤差の精度の測定値は、+1秒から+6秒である。精度の測定は、表面を上、裏面を上、12時を上、6時を上、などと時計の置き方を変えて測定した結果である。このように古い機械式の時計の精度としてはいい部類に入るとWさんは言っていた。

 時計を受け取るときにWさんに調べてもらったら、2代目の《グランドセイコー》の仕様(手巻き・秒針・日付機構付)のタイプはカタログに載っていない。自動巻き(手巻き付)の仕様のものは存在している。

 現在の高級時計の世界は想像を絶している。《グランドセイコー》の最高級品である、18Kピンクゴールドケースに《スプリングドライブ》のムーブメントが入ったものは280万円。
 2代目の《グランドセイコウ》の仕様に近いモデルでは、サファイヤガラスとステンレスのバンド付、日付機構の付いていない手巻きの仕様のもで43万円の値がついている。今回は、値段について書くことを迷ったが、あえて書いてみた。

 さて、この《グランドセイコウ》とのお付き合いを始めたが、朝、腕にはめてみると止まっているのを見て驚く。クオーツの時計を使っていると、毎日ねじを巻く習慣を忘れてしまっている。こ時計には、ベランダの花達への水遣りと同じように毎日の気配りが必要である。

 この《グランドセイコー》の精度は、機械式腕時計としてはすばらしいものである。しかし、時計は時を刻む機械であると考えると、時計の役割を果たしているとはいえないかも知れない。毎朝ネジを巻いて、何日おきかに時を合わせてることに手間はかかるが、古い仲間と再会したことでもあり、大切に使いたいと思う。【生部圭助】

《グランドセイコウ》余話~進化した時計たち~

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