■《グランドセイコー》余話~進化した時計たち~ 前号では、43年前の手巻き機械式腕時計《グランドセイコー》がよみがえったことを書いた。今回は最新の技術を駆使した時計についても触れてみたい。 機械式時計 解体新書 和光の別館にある時計の修理カウンターへ何回か行き、腕時計の話を聞かせてもらった。ここには、ベテランとおぼしき人と私の《グランドセイコー》が作られたときには生まれていなかった人の顔も見える。 43年前の手巻き機械式腕時計がよみがえって、どの程度の精度で動くのかは興味のあるところである。今回オーバーホールした私の《グランドセイコウ》の精度については、時計の6つの姿勢(文字板上・文字板下・12時下・3時下・6時下・9時下)での検査結果がデータとして残されている。一日あたりの誤差の6つのデータは、9時下での誤差+1秒と6時下での誤差+6秒の間に分布している。 43年前に購入した時に添付されていた《SEIKO chrononeter 合格証》には、7つの検査項目のデータが記されている。カウンターでこんなものを持ち出して、6つの姿勢のデータとどのように違うのか、などと質問する人はいないらしく、戸惑った様子。カウンターの中の若いNさんは、ちょっとお待ちくださいと言って、『機械式時計 解体新書』という本を持って戻ってきた。 本書は平成13年3月に出版されたものであり、機械式時計愛好家必携の一冊といわれている。この本の中より数ページのコピーをもらってきた。《時計の精度を表すのにはさまざまな特性値がある》という題で時計の精度について詳しく書かれている。 《クロノメーター》は、スイスのクロノメーター検定所が行う規格試験の基準をクリヤーしたものだけに認定される呼称であること、セイコーには社内規格としての《GS規格》があることも書かれている。 『機械式時計 解体新書』をネットで検索してみると、たくさんヒットする。本の販売の案内も多いが、機械式時計に思い入れのある人たちのサイトもたくさん見受けられる。 腕時計の最新の技術 古い時代の《グランドセイコウ》を動かしてみようという気になってから、最近の時計についても目につくようになった。 時計の歴史を《グランドセイコウ》を例にとって振り返ってみる。1960年に、独自の厳しい精度基準を設定し機械式時計が発売され、日付が入った2代目になり、自動巻きが登場。70年代になって、クオーツ腕時計の急速な普及によって機械式《グランドセイコー》は一旦市場から姿を消す。 24年後の1998年に新設計の機械式腕時計が再び登場し今日に至る。これは、高度成長が成熟した中でのゆとりの現れであろうか。 最近の腕時計(ウォッチ)を機能の面より見て整理したものを表に示す。ウォッチを作動させる動力源と正確に時を刻むための制御方式の新しい技術に着目した。
動力源としては、ゼンマイが電池に代わり、さらにソーラーを利用することで電池交換が不要になった。制御方式としては、テンプが水晶振動子に代わることで精度の向上が図られ、新しい方式を採用した電波時計が普及してきた。 腕時計(ウォッチ)を作動させるための動力源 動力源としては、機械式のゼンマイか、電気を使うかに大別する。ゼンマイを巻き上げるのには、手巻きか自動巻きに分かれる。《グランドセイコー》では手巻き付の自動巻きのモデルはあるが、現在は手巻きのみのモデルは発売さえていない。 電気を動力源に使う方式では、小さな電池が一般的に用いられており、クオーツ時計では2~5年間作動することが出来る。電池を長く持たせるためにコイルによって電流を調整しているそうである。 最近の傾向としては、電池を使わないで時計を作動させる方式が開発されている。《グランドセイコー》の最近のモデルに使われている《スプリングドライブ》や、太陽光や蛍光灯のわずかな光を電気に変換する光発電式がある。 精度を向上させるための制御方式 機械式腕時計は1秒間のテンプの往復回転が精度を左右する。カタログに《8振動》などと書いてあるのが、この回転数を示している。機械式腕時計では「5」から「10」と多くの回転を1秒に変換させることで、腕時計の精度を向上させてきた。 最近では、クオーツ時計で使われている、水晶振動子を利用する方式が一般的になっている。水晶を音叉のように加工し、これに電気を与えるとテンプの「10」相当する値が3万以上に相当する振動が得られる。量的には10が3万になることを意味しており、時計の精度としては画期的な技術となった。クオーツ腕時計の精度は月差で表記するが、機械式腕時計は日差で表記する。 発電式クオーツ腕時計 電池式(クオーツ)腕時計で、電池交換をしなくて作動させることを狙って《発電式クオーツ》が開発された。自動巻き腕時計と同じ発想で、ローターを回転させることにより発電し、蓄電池に電気を蓄えることに成功した。
グランドセイコウ スプリングドライブ 《グランドセイコー》のラインアップの中でユニークなのが《スプリングドライブ》方式である。ゼンマイのほどける力を動力源として針を動かし、同時にゼンマイの力で部品を回転させることで発電し、水晶振動子とICを作動させ、精度を制御するという独創の機構。機械式時計の味わいと、マイクロエレクトロニクスのテクノロジーの両方を兼ね備える革新的な機構となっている。 2007年には、ゼンマイでの駆動方式による《グランドセイコー》にクロノグラフ(ストップウォッチ)を搭載するモデルが発売されている。ここにも新しい技術が盛り込まれているが、ここでは説明を省略する。 電波時計 電波時計とは、光発電で充電して、クオーツ腕時計として動き、受信した電波で誤差を修正する方式の時計のこと。 最近の新聞の新製品コーナーで、セイコーウォッチの《セイコーブライツ》が紹介され、カシオの通信販売の広告には《電池交換、時刻あわせ一切不要》とのキャッチコピーに、《日本全国どこででも正確な時刻を自動的に受信し、誤差はなんと10万年に1秒》とも書いてある。 スプリングドライブも電波時計も、電池交換をしなくてすむので、エコロジカルな面で時代のトレンドに合致しているといえよう。 時を正確に刻む機械としての時計は行き着くところまで来たのであろうか。電波時計が両極の片方にある技術追求型とすれば、今年よみがえった《手巻きの機械式腕時計グランドセイコー》は反対側の極に位置するものである。今回紹介した、《スプリングドライブ》や《発電式クオーツ》は両極の間に位置しており、《エコ》を目指すなど世のトレンドに沿いたいとの意図が見える。 正確無比の時計に魅力は感じるが、時計の原点ともいえる《手巻きの機械式グランドセイコー》には愛着を感じる。飽きのこないオーソドックスなデザインのこの時計にこだわるのは、いまどきのことばで言えば、スローライフのトレンドに沿うものである。 【生部圭助】 よみがえった43年前の手巻き機械式腕時計《グランドセイコウ》 編集後記の目次へ 龍と龍水のTOPへ |