いろいろな龍の概念とかたちがつくられてきた

【メルマガIDN編集後記 第234号 120115】

 今年は辰年。龍はヨーロッパ、インド、中国、日本で様々な姿で登場し、多くの異なった意味合いを持たされている。龍とは何か? 龍の起源は? 龍は人を守る存在なのか、滅ぼす存在なのか、敵なのか、味方なのか、龍はどのような姿をしているものか、と興味が尽きない。
 前回は龍のかたちを《三停九似》で示した。今回も龍の様々な《かたち》について紹介する。ここで示す図は、国立歴史民俗博物館《たつ年の龍(2011年12月20日~2012年1月29日)》で展示されていたパネルを、説明は、江戸東京博物館《歴史の中の龍(2011年12月3日~2012年1月29日)》で展示されていたパネルををもとに作成したものである。


北斎漫画 龍


上:応竜(おうりゅう・おうりょう)
左:螭竜・雨竜(あまりゅう・あまりょう)  右:だ竜
【国立歴史民俗博物館《たつ年の龍》の展示パネルより作成】


蜃(しん)
【江戸東京博物館《歴史の中の龍》の展示パネルより作成】

【出展図版:『北斎漫画』(葛飾北斎) 江戸末期】
【『北斎漫画』は山口県立萩美術館・浦上記念館蔵】
さまざまな龍
 龍は十二支の動物の中でも唯一架空の動物であり、実際に存在する動物の優れた部分を取り込んで、神秘的な動物としての龍の概念と形態がつくられてきた。
 そして、龍の力に畏敬の念をいだき、吉祥画題としても様々な意匠にも取り入れられてきた。

 龍には様々な種類があると考えられてきた。江戸時代の絵入り百科事典といえる『和漢三才図会』(18世紀初頭)の《龍蛇部》には龍の字を持つものだけでも6種類が載っている。葛飾北斎の絵手本『北斎漫画 二編』(1815(文化12)年刊)でも4種類の龍が描かれている。

 中国の代表的な本草書『本草綱目』(李時珍 撰 1996初版)によると、竜で鱗(うろこ)のあるものを鮫竜(みずち)といい、翼のあるものを応竜という。角のあるものを虬竜(きゅうりゅう)といい、角のないものを螭竜(あまりょう)という。

螭竜・雨竜:あまりゅう・あまりょう
 蜥蜴(とかげ)に似ているが、大型ではなく、尾は細い。全身青黄色をしており、雨を起こすといわれている。工芸図案としても定着している。

応竜:おうりゅう・おうりょう
 つばさのある龍。幕末の錦絵中の人物の着衣や刺青にも見ることができる。

だ竜
 河や湖にいる。形は守宮(やもり)に似ていて長さは一、二丈(約3~6メートル)、背尾に鱗甲がある。気を吐いて雲をなし、雨を呼ぶ。中国産のワニの一種ともいわれる。

蛟竜・蛟:みずち・みづち
 長さは一丈(約3メートル)あまり、蛇に似ていて鱗があり、4本の足がある。小頭で頸は細く、首の周りに輪のような白い模様がある。胸前には赤褐色、背上には青斑があって脇のあたりは綿のようである。尾には肉輪がある。

蜃:しん
 気を吐くと蜃気楼を起こすといわれる。形は蛇に似ているが、大きく、角があって龍のようである。鬣は紅色で腰以上の鱗は逆向きに生えている。
 本来、蜃ははオオハマグリを意味する。蜃は蛟の属といわれる。蛇が雉と交むと蜃が生まれる、とも言われる。

虬竜:きゅうりゅう・きゅうりょう
 蛇に似ているが、4本の足を持ち、毒気を吐いて人を害するという。虬は蛟の属で角のあるものといわれる。

吉弔:きっちょう
 龍は卵を二つ生むが、その一つは吉弔になるという説がある。蛇の頭、亀の身体を持ち、水中や時には樹上に棲むという。

エピローグ
 龍のかたちがこのように多岐にわたっているのを知るにつけ、サグラダ・ファミリア教会に《ガーゴイル》を登場させたガウディの概念に通じるものがあるように思えてならない。メルマガIDN 第161号(08年12月15日号)に《ガーゴイル》を龍の仲間として紹介しているのでご覧いただきたい。

 前回、《三停》とは龍のプロポーションについて、首から腕の付け根、腕の付け根から腰、腰から尾までの三つの部分の長さがそれぞれ等しいことを意味していることを紹介した。
 安田嘉憲編の『龍の文明史』の伊東司氏の稿に、「三停説だが、龍を三つに切断し、三か所に埋葬するという話に関連しているかとも思われるのだが、云々」と書かれている。

 実際、龍角寺(印旛郡栄町)、龍腹寺(印西市)、龍尾寺(匝瑳市)という三つのお寺が千葉県に存在している。
 日照りが続き苦しむ農民の願いを聞き入れて雨を降らせた小龍は、龍王の怒りに触れ、体を頭、腹、尾の3つに割かれてしまった。小龍に感謝した人々は、それぞれをお寺に祀ったと言われている。【生部圭助】

メルマガIDN 第161号