田無神社の五龍神
【メルマガIDN編集後記 第355号 170201】


 最近はパワースポットが話題になることが多く、テレビの番組で、田無神社の五龍神のことを知った。田無神社には《五行思想》に基づいて五龍神が祀られている。《四神相応》の約束事に基づいて、一の鳥居を入ったところの右側に赤龍神、境内に入る手前の左側に白虎神、右手の奥に青龍神、左手の奥に玄武神、本殿の中に金龍神が祀られている。


田無神社 正面 鳥居の奥に本殿を見る


  
本殿正面にある倶利伽羅龍王  左:正面より 右:内部より見る
金龍神は本殿の中に合祀されている


青龍神の祠 写真は左手前にある手水


赤龍神


白龍神


黒龍神

宿場町としての田無
 徳川家康が江戸幕府を開くにあたり、城や町の建造のために大量の石灰(壁の材料)を必要とした。家康はそれを青梅の地に求め、青梅街道を開いた。青梅街道は青梅から箱根ケ崎、さらに田無、中野を経て江戸まで50キロ続いている。
 その際に、水が豊で肥沃な幕府直轄領の谷戸に住んでいた田無の人々は、大久保長安の指示に従い、水に恵まれていない1kmほど南の青梅街道沿いに移住した。そして、江戸城や江戸の町作りのための伝馬継ぎとして青梅街道に沿って宿場町を造営した。
 田無の名前の由来は、田んぼもないほど水に恵まれない、という意味だといわれている。

田無神社の由緒
 田無神社の創立は正応年間(鎌倉期、13世紀)のこと。谷戸の宮山に鎮座し、尉殿大権現(じょうどのだいごんげん)と呼ばれていた。ご祭神は龍神様。
 まず元和8年(1622年)に、宮山に鎮座する尉殿大権現を、上保谷に分祀し、正保3年(1646年)に宮山から田無(現在の地)に分祀し、寛文10年(1670年)には、宮山に残っていた尉殿大権現の本宮そのものを田無に遷座した。
 さらに、尉殿大権現は明治5年(1872年)に熊野神社、八幡神社を合祀し、田無神社と社名を改めた。

 その際に、主祭神・大国主命と須佐之男命(すさのおのみこと)、猿田彦命(さるたひこのみこと)、八街比古命(やちまたひこのみこと)、八街比売命(やちまたひめのみこと)、日本武尊命(やまとたけるのみこと)、大鳥大神(おおとりのおおかみ)、応神天皇(おうじんてんのう)を祀り、現在に至っている。

四神の信仰
 田無神社には五行思想に基づいて五龍神がお祀りされていが、《四神の信仰》について、紹介しておきたい。
 四神の信仰は古代中国で誕生し、日本へ伝えられたもので、東は青龍、南は朱雀(鳥)、西は白虎、北は玄武(亀と蛇)という神獣がそれぞれ鎮護するというもの。
 四神が司る方位に四神を配置することで、四神に守られ陰陽のバランスが整った空間となり、凶相を吉相にかえ、気が活性化し、運気の高い気が流れ、財運や発展などの開運パワーをもたらし、幸せに暮らせる理想の環境とされる《四神相応》を作り出す事が出来る。
 古くは、『続日本紀』の大宝元年(701)正月元日の条に、「朝賀の儀式に烏形の幢(どう)、左に日像(にっしょう)・青竜・朱雀の幡(ばん)、右に月像(げっしょう)・玄武・白虎の幡が立てられた」ということが明記されている。四神の意味するところを下に示す。
   青龍:東方・朝・春・青・流水
   朱雀:南方・昼・夏・赤・湖沼
   白虎:西方・暮・秋・白・大道
   玄武:北方・夜・冬・黒・丘陵
 四神を配した地は風水では最良の地とされ、邪気を遮断し、福禄・無病・長寿を呼び込むとされている。

田無神社の五龍神 方位除け
 方位学では、宇宙は木火土金水(きひつかみ)の五つの要素で構成されていると考える。これを中国では五行と称し、我が国では五元(いつもと)と称す。
 この五元は五方位・季節・五色・五臓・五味や干支など様々な物事を表している。また相生・相克・比和という五行の相性により、力が大きくなったり小さくなったりする。
 田無神社は「五行思想に基づいて五龍神がお祀りされている」と説明している。東方に青龍神、南方に赤龍神、西方に白龍神、北方に黒龍神、中心の本殿に金龍神が配されている。
 また、境内にある大きな銀杏の木は、それぞれの龍神様の御神木として多くの人々に親しまれている。田無神社における、各龍神の役割やご利益を以下に示す。

金龍神:
 土用を象徴する中央、大地・豊穣の守護神。他に家庭運・頭領運・事業運等に関する事を司り、大地に根ざす様な基盤を作れる様に導く。本殿の中に合祀されている。

青龍神:
 春を象徴する東方、樹木・風の守護神。他に庭園・話術・音楽性・積極性等に関する事を司り、新芽が出る様に発展へと導く。

赤龍神:
 夏を象徴する南方、火の守護神。他に書斎・学業・勝負事・昇進等に関する事を司り、灯火の様な先見の明を与える。

白龍神:
 秋を象徴する西方、金属の守護神。他に倉庫・金運・飲食・結婚運等に関する事を司り、鉱脈を掘り出す様な収穫へと導く。

黒龍神:
 冬を象徴する北方、水・雨の守護神。他に厠・浴室・健康運・夫婦運・交際運等に関する事を司り、流水の様な新鮮な気を保たせる。

エピローグ
 《四神相応》では、四神の中央に《黄竜》あるいは《麒麟》を加えたものを《五神》と呼んでいる。《五行》とは木・火・土・金・水の五元素のことで、これが万物を構成しているという考え方である。五行相克説というのもあるが、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生、というのが五行相生説である。

 《五神》と《五行》はよく似ているが、五神の考え方が五行から生まれたものであるかは、私の知識の範囲では明確でない。いずれにしても、方位としてみれば双方は共通している。田無神社では、方位と色に着目し、五色の龍を配したものであり、五神と五行を応用した特異な例であると言えよう。【生部 圭助】

写真などの詳細はこちらでご覧ください
編集後記集へ