高松塚古墳の四神の龍
高松塚古墳 入口
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
高松塚古墳がたどった経緯
高松塚古墳の発見は、昭和37年(1962)頃のことであるが、10年近く放置されたままだった
昭和45年(1970)になって、明日香村より古墳の調査を依頼された橿原考古学研究所(橿考研)が昭和47年(1972)3月に発掘調査に着手し
石室の東壁・西壁・北壁・天井の4面に描かれた極彩色の壁画が発見した
橿考研は調査結果を報道陣に発表した後、古墳を密閉することを命じた。そして4月には文化庁に保存が委託された
昭和48年(1973)3月、文化庁は高松塚古墳を「国の特別史跡」に指定した
昭和49年には、古墳から独立して壁画だけを絵画の「国宝」に指定した
昭和51年3月に、保存施設が竣工し、石室の内部は完全な空調管理下に発掘前の状態に保たれ、飛鳥美人たちは元の世界に戻ったものと、誰もが信じた
だが、石室内に大量のカビが発生、その原因究明のため封土をはぎ取ったが、カビ発生の原因は特定できなかった
平成19年(2007)4月から5か月かけて石室を解体して
国営飛鳥歴史公園内に設置した国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設に搬送し、壁画の修理が行われている
修復後は壁画を古墳内に戻さずに、墳丘の近くに公開施設を整備し、展示・保存する方針が文化庁の検討会で決まっている
文化庁は2017年7月に修復作業室を公開(第18回)した
高松塚古墳の築造年代
藤原京から南への中軸線の一体に位置する高松塚古墳の築造年代は
出土した海獣葡萄鏡などの副葬品から、西暦700年前後とされ、のちに藤原京期の須恵器が出土したことからも発掘当初の推定を裏付けることになった
壁画も、飛鳥時代に始まる仏教美術が花開いた白鳳から天平時代にあたる重要な作例とされる
被葬者は特定されていない
高松塚古墳は江戸時代までは、文武天皇陵とされていた。墓室内から出土遺物や壁画内容から被葬者を特定できる資料はない
中国の墳墓では一般的である墓誌も発見されていない。被葬者については、皇族、皇子説、有力豪族説があるが特定されていない
高松塚古墳形状・極彩色壁画
高松塚古墳の石室は凝灰岩の切石を組み立てたもので、南側に墓道があり、南北方向に長い平面の形状をしている
直径23メートルの円墳の石室の寸法は長辺(南北)の長さが約265cm、短辺(東西)の幅が約103cm、高さが約113cm(いずれも内法寸法)
平面形状は三畳間に近い
壁画は石室の東壁・西壁・北壁・天井の4面に存在しており、切石の上に厚さ数ミリの漆喰を塗った上に描かれている
東面:青龍
手前から男子群像、四神のうちの青龍とその上の日(太陽)、女子群像
尾の部分は浸透した水分によって汚れて見えない
龍は南を向いて、足を踏ん張り
赤く長い舌を張り出して、大きな口を開けて威嚇する
特徴的なのは尾を後足に絡めて、その末端を跳ね上げる点
頭部には2本の角が生えている
体は緑青に群青を刷いたもので
頸部や胸前、背に赤の鰭(ひれ)があり
また頭頂部や足の付け根には長毛を淡墨線で描く
頸部には特徴的な濃赤色の斜格子の画文帯がある
【百橋明徳 古代壁画の世界 (吉川弘文館 2010)より】
高松塚古墳 東壁面(全景) 長さが約265cm、高さが約113cm 3つの切り石の継ぎ目が見える
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
高松塚古墳 青龍
【笹間良彦 図説・龍の歴史大事典(遊子館 2006)】
高松塚古墳 青龍 頭部と前足 3本の爪が見える
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
西面:白虎
手前から男子群像、四神のうちの白虎とその上の月、女子群像
白虎は頭を南に向け、ほぼ青龍の図像を反転したものと考えられる
大部分が白であり、漆喰の色と見分けがつかない
現在は淡墨線の輪郭線のみ見えるが、濃墨線の描起線があったとされる
淡墨線をたどると全体の輪郭がよく見える
特徴的なのは尾を後足に絡めて、その末端を跳ね上げる点である
高松塚古墳 西壁面(全景) 長さが約265cm、 高さが約113cm
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
白虎の頭部
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
北面:玄武
四神のうちの玄武のみが描かれている
亀と蛇が絡んだ不思議な図
盗掘者が玄武の図像を破損したため、中心部がよく分からない
亀は左を向き、蛇は亀の体の下を通り、後ろ脚から抜けて亀の上部で円を描いて絡む
後に発見されたキトラ古墳壁画の玄武とほぼ同様な図像であったと確認できる
【百橋明徳 古代壁画の世界 (吉川弘文館 2010)より】
高松塚古墳 北壁面(全景) 幅が約103cm、高さが約113cm
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
玄武
【文化庁 国宝 高松塚古墳(中央公論美術出版 2004)】
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